セレブな母子家庭と、亡父の愛人をめぐる物語。60歳でも4人のおじさんたちからちやほやされるママと、20歳の一人娘いずみちゃんが、エキセントリックな行動を繰り広げる。いずみちゃんが比較的庶民感覚を持ち合わせているせいか、セレブな出来事や行動を、不思議とイヤミに感じない。
エロスがなくって健康的だ。章立てがコンパクトで、リズミカルに読んでいける。他作品にも共通するが、体言止めの小タイトルが魅力的だ。
森のなかのママ
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人の心の中なんて例え親子であっても、いや、親子だからこそか、分かっているようで分からないものだなあと。そのことが、主人公の大学生、いずみの目から見た母親の姿とその謎めいた行動を通して、実に巧く描き出されている小説でした。
数年前に亡くなった、世間では割とよく知られた画家を父に持ついずみ。彼女の母親の毬子さん。毬子さんの取り巻き連中の男が四人、トリさんにジンちゃん、掛川さんと伏見さん。いずみの学友、気のおけない奴でもある照次郎(てるじろう)。彼らの間に流れているさらりとした雰囲気、それが良かった。変にべたべたせず、ほどよい距離を保って、それぞれのルールを認め合って生きているみたいな。暗黙の連携プレーで居心地の良い空間を作って、それを共有しているみたいな。
そして登場人物のなかでは、毬子さんの個性がキラキラと光っていました。娘のいずみからすると、万事につけのほほんとして、ヤなことがあってもどこ吹く風と受け流しているように見える毬子さん。天真爛漫な子供のようでもあり、しばしば、マリー・アントワネットめいた無邪気な言動で周囲を煙に巻く毬子さん。どこか妖精みたいな空気を身にまとった毬子さんのキャラが生き生きと、魅力的に描かれていました。
本書の帯に書かれた江國香織さんの文章が、また実に言い得て妙の、この作品にふさわしいコメントです。その後半部分を引用しておきますね。
<< 「攻撃は最大の防御」などと行って澄ましている「ママ」の住む森に、わたしたちはいつのまにか迷い込んでいる。それは可笑しくも切実な、日々の迷路である。>>
荒野さんの小説の中では一番好きだったかもしれません。
主人公いずみの恋も描かれていますが、物語のはいずみの「ママ」の掴みどころのない言動を中心に進んで行きます。ママは、死んだパパを本当に愛していたか、そして今は誰を想っているのか…。
主人公いずみの恋も描かれていますが、物語のはいずみの「ママ」の掴みどころのない言動を中心に進んで行きます。ママは、死んだパパを本当に愛していたか、そして今は誰を想っているのか…。
美しく、奔放な性格のママに振りまわされっぱなしのいずみとママの取り巻きの男たちの姿がユーモラスに描かれています。これまでの荒野さんの「恋愛小説」とはちょっと違った趣です。
芸術化の父を持ったいずみ、美術館を兼ねた自宅やアトリエのある庭…そういった設定に、荒野さん自身の生い立ちを重ねて想像してしまいました。父・井上光晴氏との生活って、どんなふうだったのか…そんなことにも興味を持ちました。



