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短篇集 バレンタイン
柴田 元幸
価格: ¥1,050 (税込)

単行本
出版社: 新書館
発売日: 2006/06/01
ISBN: 4403210902
おすすめ度:4.5
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膨張する仮定
柴田元幸が幽霊と言った場合、多くは「もしもあのとき、こうしていたら」という仮定のもと、現実よりリアルになってしまった空想を指す(たぶん)。その『幽霊』を通底音とする短編集。

物語の中、主人公の空想は唐突に始まって、当人にも止めることができない。その前には現実なんてぺらぺらの絵みたいになって、そのうち見えなくなってしまう。
その種の空想にしょっちゅう巻き込まれている(空想しているというより、自分が空想に絡めとられている)人もいるし、そんな空想があるなんて考えたこともない人もいる。幽霊を見る人もいれば、見ない人もいる、ということだ。前者はこの本を読んで違和感がないだろうし、後者は変な夢でも見たような気分になるだろう。
この作者がエッセイ中で百フの名台詞を引いて強調しているように、教訓じみた明瞭なテーマみたいなものはない。仮定は人生を豊かにしますとか、そういう話では全然ない。だから安心して読める。

作者は専業小説家ではないけれども、小説的な技術レベルはきわめて高い。その点も安心である。エッセイで魅力を発揮していた、だらりだらりと続く長いセンテンスはなりを潜めて、おおむね端正な文体にまとまっている。残念なような、読みやすくて嬉しいような。
そうして、やっぱりこれは愛の物語であると思う。バレンタインの贈り物に相応しいロマンティックなお話では全然ないけれども。
不思議な小説集
なんだろう?
不思議な小説集だった。
小説なのか、エッセイなのか?
でもエッセイにしては現実味がないし、
小説にしてはこれまた現実なのか虚構なのか
分からない不思議な世界が展開されている。

ここにリアルさはほとんどないといってもいい。
でももしかしたらそういうのもあるんじゃないの?って
思わせてしまう、
錯覚させてしまう
不思議な物語の連続に
こちらの感覚も麻痺していく、そんな感じでした。

本当に不思議の世界に迷い込んだような
でも、何故だか落ち着いていられる、
そんな妙なでも心地よい読後感を味わえた。
訳しても通じるだろうという普遍性
 「バレンタイン」で始まり、「ホワイトデー」で終わる十四の短篇集。
 翻訳家・柴田元幸の小説と聞いて最初に興味を持ったのは、「舞台はどこなのだろう?時代はいつなのだろう?」と言うことだ。そして、それは日本であり、著者の幼少期から現代だった。どの短篇の主人公も、“まるで”柴田元幸なのだ。エッセイに限りなく近い小説。エッセイは事実にある程度規定されるけど、そういう意味で小説は自由だ。身辺を描きながら幻想を交えることが出来る。過去と現代を往復できる。もちろん小説にも“小説でなければならない”という形式論的な不自由さはある訳だけど。この短篇集には、少なくとも“あの柴田元幸が初めて書いた小説”という周囲の過剰な期待に縛られるところはない。エッセイの延長線上のような力の抜け具合で成功している。小説家としては、うまい滑り出しのような気がする。
 日本の、しかも著者の身辺や思い出をモチーフにしながら、これは訳しても通じるだろうという普遍性を持っている点は、さすがだ。
 「バレンタイン」で“君”は“かつての君”に語りかける。「僕は十代より二十代の方が楽しかったし、二十代より三十代の方が楽しかったし、三十代より四十代の方が楽しい」。僕もかつての僕にそう語りかけることの出来る僕でありたいと思った。
少年柴田君、平成に登場! いや、学者柴田さん、あの頃に回帰!
柴田のもとゆきさんが、小説書いた。僕は、さっそく書店へ行き、わくわくしながら、購入したのだ。
さて、柴田さんといえば、あの翻訳家の柴田さん。あの柴田さんが小説だって?
ぱらぱらとページをめくれば、あら不思議、なんとも素敵な物語ではないか。それはそれは、へんてこりんな物語。
少年柴田くんが、いっぱい出てくるし、僕まで少年になったみたいだな。

ほんのちょっぴり、でこぼこ感があるのは、ご愛嬌。だって柴田さん、小説家じゃないものね。

バレンタイン、あるいはホワイトディに、素敵な恋人に贈るのにぴったりな本ですねぇ。
起きながら見る夢
「昨日こんな夢見てさ〜…」などと、職場や学校の友人、または家族に話すことは誰にでも経験があると思います。しかしなかなか詳しく思い出せずに、結局奇想天外で大雑把なストーリーだけを話すと「なにそれ〜」と笑われたり…。

私には、そんな「夢」を、起きながら丁寧に見せられているような印象を受けました。

これはなかなか難しいことだと思います。所々ユーモアもあって時に声を出して笑うのですが、次の瞬間心の底から笑えないようなリアルさが顔を覗かせてハッとすることが何回かありました。読みやすく上品で空虚な文章が、淡々と日常のリアルを的確にもぎ取っていく様子に、しばし心地よく翻弄されます。




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