ひとつ前に戻る

彼女がその名を知らない鳥たち
沼田 まほかる
価格: ¥1,680 (税込)

単行本
出版社: 幻冬舎
発売日: 2006/10
ISBN: 4344012399
おすすめ度:5.0
Amazon ランキング: 195747位
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ラストシーンで泣きました
カスタマーレビューを読み、図書館で予約して、期待しながら読み始めた。
最初の方は、心が弱く我儘な十和子と、同居人の醜悪な感じの繰り返しだったが、
だんだんサスペンス調を帯びてきて、最後の最後に悲しいドンデン返し。
ラストシーンでは、不覚にも涙がこぼれてしまった。
まさに「純愛サスペンス」です。
なにかもが、リアルで、共感できる。
話の大半は、十和子の、愚痴のオンパレード。
黒崎はステキだったな。とか
それに引き換え陣司は、汚いし、下品だし・・・みたいな。

うつうつと、文句が書かれているのに
全然、読む気を失わない。
しかも、「この女、壊れてるなぁ」って感じたのは、なんと物語の最後の方だった。
主人公の女にも若干、嫌悪は覚えるものの、
やっぱり、主人公と一緒に、陣司をうがった目で見てしまう。

水島が、嫌がらせを受けるようになり、陣司の仕業じゃないのかと、十和子に聞くものの
認めれば、それを理由に捨てられると焦る気持ちとか、
出会うきっかけとなった、クレーム対応で、用意された35000円の時計が
実は、3000円で売られていたと知ったときの粟立つ気持ちとか
しばらく会えなくて、やっと会える時に、水島にネクタイを選んで妻の振りをする浮かれた気持ちとか

なにかもが、リアルで、共感できる。
で、十和子側から物語りは書かれているので、陣司の件の鵜呑みにしてしまってたかも。

けれど、こんなでも、離れない理由が、きちんとあったのです。
1冊の本に、永遠、愚痴っても別れない理由が。
それは、読んでのお楽しみです。
けがれの象徴だったのか
 気味の悪い恋人同士が描かれる。その、互いに傷つけあい依存しあう寄り添い方が醜悪である。終盤まで、その生々しい傷つけあい方、相互不信が生々しい。でもなぜか別れられない踏ん切りの悪さも、論理以前の説得力がある。
 陣治への生理的な嫌悪は、一人称で語られるだけにわかりやすい。それは理屈ではないからだ。理屈では、十和子の接し方一つで、陣治の献身が好転するだろうとわかるのだが…。読者としては十和子の徐々に明らかになるトラウマに共感してしまい、破滅的な十和子の行動を追認してしまう。仕方ないよね…嫌いなものは嫌いなんだ…と。
 だが、十和子が陣治を嫌うのは、論理的な心理メカニズムであると、終盤知らされる。陣治は、けがれの象徴だったのだ。そしてそれを最後まで引き受ける陣治のラストシーンは、鮮やかだ。
心配するって心をくばること
十和子は八百屋お七のように8年前に別れた(というか捨てられた)黒崎という男を思います。
あいたいあいたいあいたいあいたい。
十和子はうつろにDVDレンタル映画を見ること以外なにもしません。
十和子には同居人が居ます。
周囲からは別姓の夫婦であると考えられているような男が。
女の生理的嫌悪感を具象化したような男,十和子から決して離れない男です。
それが陣治です。
十和子は男を苛めて責めます。肺腑をえぐるかのように,存在を否定するかのように。
陣治はただひたすら打ちひしがれ,許しを請います。
そんな救い様の無いかのような状況から,十和子は更に立ち入り禁止の柵をなぎ倒して進みます。
見え隠れする男達の不誠実を,十和子は自己の虚無の中に隠しこみます。
欺瞞の多幸感を消さないために。
スモッグがはれる時,十和子はなにを見るのでしょうか。

抜群の小道具,いやになるほど冷淡な視線,完全にノックアウトされました。
大芸術!!

ところで著者のプロフィールにある,主婦→僧侶→会社経営って何者でしょう。凄すぎです。
傑作
まず前作(デビュー作)に比べて筆力が格段に上がっている。比喩や日常の描写が秀逸で、そのデリケートな描出が物語に並々ならぬ緊迫感を付与している。タクラマカンのエピソードも全体を覆う閉塞感とリンクしていて良かった。これ以上は望めないだろうと思っていた前作の質を、あらゆる面で上回る出来だと思う。こうなると次回作が楽しみで仕方ない。
ただ、物語の核心とも言える「何故ピアスが陣治の部屋にあったか」という謎の真相が個人的には少し残念だった。もっともそれはミステリ的な読み方をすると残念という意味で、この作品の色からすれば気にするべきところではないのかもしれない。
最後に、作品自体の質とは違う話になってしまうが、表紙がすばらしかった。記憶していないか、或いは単に読み方が拙かっただけだと思うけど、自分はこの物語のいずれの場面でも「青空」を思い描くことができなかった。壊れそうな緊張感に終始するこの物語には、降雨寸前の曇天、あるいは星の浮かない夜空がよく似合う。あのエンディング、胸の締め付けられるような思いで読了したとき、本を閉じてそこに青い空があると、本当に救われた気分になる。



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