この作品は正統派のSFではありません。
設定はかなりSFなのですが、読み味は違うのです。
普段何気なく食べているものが高度な知能を持ったら…
そのときは、「○権」を認め、捕食をやめるべきなのか?
そんな、ある種哲学的な問が示される。
突然、知能を獲得した牛たち。
「牛権」を主張し、人間たちに「我々を食べるな!」と迫る。
「牛権を守ろう!」などと正論を吐きつつも、結局エゴの塊で、
自分に都合のいいことしか見えない、見ない人間と
あくまでも「牛権」を守ろうとする牛たち。
2者の思惑はすれ違い、次第に対決の様相を呈し始める…
知能を持った牛たちの行く末は?
涙なくしては読めない、不思議な人情SFです。
この小説を読む規準として大半の方は「SF新人賞受賞作」であることを挙げるでしょう。ですが、この小説は「SF」ではないと思います。「SF」の設定を借りた「人間ドラマ」がメインテーマだと思われるのです。
突如知能を獲得した和牛。その和牛たちが「牛権」を求め、国会が開かれ……と、筋だけを追えばパニックSFですが、その背後で綴られていく主人公とその家族、そして牛のモー太郎との関係がとてもドラマティックで感動的です。
勿論、社会風刺としても、昨今の狂牛病騒動を予見したかのような内容も、完成された文章も全てが読み応えがあり、非常に完成度の高い小説です。
ただ、とにかく、「これはただのSFではない!」のです。どうぞそのおつもりでお読みください。
牛が人間レベルの知性を持つ。
そこから始まるこの物語には、読む人を引き込む力があります。
確かにSFだろうけれども、SFの枠に収まらない人間達と牛達のドラマ。
随所に込められた知識、風刺にも圧倒されました。
なにより、描かれている人が、牛が、なんとも魅力的です。
ありえないだろう物語なのに、本当に存在する事件のように思えてしまった。
『騒動記』のタイトルに偽りなし、良い本です。