宮本輝らしい、香り立つ作品集。
こたえを出すことの難しい様々な恋愛が描かれている。不倫と妊娠、出生の秘密・・・人生の影の部分を仄かに照らす、こころの物語。
『月に浮かぶ』では、名月の夜に洋上で不倫相手の深刻な告白をうけて“私”がつぶやく。「僕には、海に映っている月のほうが本物に見えるよ」・・・。
善悪では割り切れない、男と女の恋愛・性愛のどうしようもない部分が描かれていて、余韻の残る短編集だ。
本は薄いですが、中身は濃厚な短編集。特に『舟を焼く』は少ないページによくぞと、ため息が出るぐらい読み応え充分です。旅館を営む若い夫婦と焼かれる舟のエピソードを聞くにつれ互いに自分の心を顧み、やがて気持ちの整理をつけます。舟に運命を重ね合わせる様が絶妙です。
自分の子供を身籠もって流産した美幸と海上で満月を見る『月に浮かぶ』、珠恵との最後の旅で泊まった安旅館の主人夫婦は2人の思い出の舟を焼き別れてゆく『舟を焼く』、九州で一夜を過ごした真須美と2年後リスボンで再会し彼女の家で義父母と出会う『さざなみ』、入院した母の同室のパン屋の嫁、彼女の亭主に母は夫の香を嗅ぐ、そして母の或るパン屋に関する思い出話『胸の香り』、郵送されてきた<しぐれ屋の歴史>と言う小冊子、送り主と会いしぐれ屋と父母との関わり合いを知る『しぐれ屋の歴史』、和歌山で起こった殺人事件、加害者である次男の友人のカバちゃんと父親が2人いる彼の家族との思い出『深海魚を釣る』、シルクロードの旅で見かけた2匹の蝶に見えた母と娘は小学校5年の時叔母に!預けられた町にいた乞食の母と娘の思い出を呼び起こす『道に舞う』、あとがきにもあるが数少ない短編集、妻、父、母、家族を描く凝縮された作品達。絶品