1950年代初期、フランス領ベトナムは内戦で荒れていた。当地に長く、Phuongという現地の女と住むイギリス人記者の私。その元へ、Pyleというアメリカ人が死体で発見されたとのニュースが入ってきた。Pyleは経済育成ミッションで来ており、私とは生前交流があった。ベトナムとPhuongをめぐる、Pyleと私の過去を遡っていく・・・。
この本のエッセンスは、”I have never met someone who had better motives for all the trouble he caused”「自分の引き起こしたトラブルすべてについて、彼ほど良き意図をもっていた男を、私は知らない」、この一言に集約されていると思います。アメリカが世界各地で起こす騒動は、いつも崇高な使命に基づいている、そんな構図をベトナム戦争開始前に喝破しているグレアム・グリーンの炯眼には頭が下がります。
加えて、アメリカ的理想論を批判しながらも、ヨーロッパ的現実論のもつ恐ろしさ、そして、そうしたイズムにとらわれない、アジア的しなやかさ、生きるということへの達観した接し方にも視点は及んでいきます。アメリカ的思想のうすっぺらさ、ナイーブさを問題にしつつ、理屈でないエゴイズムの辿る末路を描いている点で、一段と深みのある作品になっています。
他国に先制攻撃を仕掛けておきながら、それが正義だと
いう大統領を支持できるアメリカ人。彼らの、外側から見ると
自己中心的としか思えない心の内を、グリーンは正確で
簡潔にこの物語の中でえぐっている。
マイケル・ムーアの映画も悪くないが、アメリカ人というものを
考えていくうえでは、この物語のほうが数段役立つ。
主人公はイギリス人だが、途中から登場するアメリカ人の若者
が物語の中心を占める。その昔の、ステレオタイプのアメリカ人
の言動は、今の日本人の一面をよく表している、と気付かされた。
全体として、古きよき時代の雰囲気を感じるのに好適な物語で
ある。時代背景についての知見を得るのにも向いている。