旧版の黒沼健訳「黒い天使」の解説で都筑道夫氏は「個人の好みでいわせてもらえば、わたしはこの作家のすべての作品を通じて、この『黒い天使』がいちばん好きだ。」と述べていて、「この長編にウールリッチという作家の特徴がいちばんよくでているような気がする」として次の3点を挙げている。
1 本質的に短篇作家であり、長篇の場合も、エピソードの独立が目につく構成をとることが多い。
2 女を書くのがうまい。ことに窮地に立った若い女性を書かせては比類がない。
3 ということは彼は本質的にロマンティズムの作家であり、都会的な感傷と孤独感と恐怖をその中にもりこんだ点に彼の独自性がある。
この作品はそれぞれのプロットがしっかりしていて、はじめはゆっくりと話が進むが、後半終わりにかけて一気に読ませる面白さがあり、読後感も決して悪くない。新訳になって字が大きくなり読みやすくなったのはありがたい。
黒い天使 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
コーネル ウールリッチ/Cornell Woolrich/黒原 敏行
価格: ¥798 (税込) 文庫 出版社: 早川書房 発売日: 2005/02 ISBN: 4150706069 おすすめ度: ![]() Amazon ランキング: 354723位 ![]() |
本作はデビュー作『黒衣の花嫁』とよく似ています。『黒衣の花嫁』は女性が復讐の為に人を次々と殺していく話ですが、こちらは夫の無実を信じる女性が容疑者のもとを次々と訪れ、犯人かどうかを確認するというストーリー。もちろん実際に犯人なのは一人だけですが、一人一人の容疑者と彼女との関わりがそれぞれ興味深いエピソードになっており、短編をいくつか重ねることによってひとつの長編を作るというウールリッチの得意技が心行くまで展開されています。
詩情というレベルを飛び越えてメロドラマチックな情感をかき立てる独特の文体も、本作においてもっともよく表れているような気がします。ついでに、推理小説としては論理的な欠陥を抱えているというのもウールリッチ作品の特徴のひとつですが(?)、本作の欠陥は非常にわかりやすく、かつ解説でもその点が触れられているので、その面でもウールリッチらしさというものを堪能できます。



