医学博士ホブスンはある老女の臨終に立ち会って、脳波を測定する。そのとき、人間の魂が脳から抜け出していくのを世界で初めて記録する。魂の存在をさらに見極めようと彼は自分の脳をスキャンして、自分の精神のシミュレーションをコンピューターの中に3つ作り出す。しかしそのうちのひとつが、殺人事件を起こしてしまう…。
2011年の近未来を舞台にした1995年発表の作品です。こんな荒唐無稽な粗筋の物語を幼稚なものと読者に感じさせることなくきちんと構築して一級のエンターテインメント小説に仕上げる作者ソウヤーの手腕はお見事です。500頁近いこの文庫本を一度も飽きることなく読み終えることができました。
描かれる擬似科学知識の信憑度がどれほどのものなのかは文系人間の私には推し量るすべもありませんが、この物語を本物らしく思わせるのは主人公ホブスンが妻やその家族、そして友人たちとの間にもつ人間関係がしっかり描かれているからでしょう。その人間関係は決して順風満帆ではなく、私たちが常に感じるであろうすれ違いやそりの合わない思いが常につきまといます。それが全く飾り気なく綴られています。妻との夫婦関係は崩れ落ちる瀬戸際にまで行きますが、そこでホブスンが見せる苦悩はどっぷりと人間くさいものです。未来人とて私たち現代人と何も変わらない、もろくて傷つきやすい存在だという点に、深い共感を覚えながら頁を繰りました。
そしてピーターとキャサリンのホブスン夫妻のその後を描いたエピローグには、ほろりとさせられました。傷つき、歯を食いしばることばかりに見える人生であっても、生きることの素晴らしさをSFという形で描くソウヤー。前回読んだ「フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫SF)」同様、私は彼の著作にたっぷりと楽しませてもらうと同時に、心にほんのりぬくもりを感じることができました。
ターミナル・エクスペリメント (ハヤカワSF)
ロバート・J. ソウヤー/Robert J. Sawyer/内田 昌之
価格: ¥966 (税込) 文庫 出版社: 早川書房 発売日: 1997/05 ISBN: 4150111928 おすすめ度: ![]() Amazon ランキング: 130565位 発送可能時期: 通常3~5週間以内に発送 ![]() |
良い小説を読んだ後は、それ以前より世界を少し好きになる。
この作品も、そうした小説のひとつだ。
筋としてはSFらしい設定、主題が一本走っているのに、しっかりエンターテイメント性を保ち物語物語している。
後半に進むにつれ、コンピュータ、ネット寄りの話が増え、ニューロマンサーやマトリックスといった仮想空間ものと、丸ごとスキャンされた自分の同一性、アイデンティティを問うところはイーガンの順列都市に通じるような気がした。
ドーキンスやデカルトなどに触れたり、それだけで1つ作品ができそうな未来の様式がさらっと登場していたりするが、あくまで物語を引き立てる要素としてうまく使われているため、全く違和感なく楽しめる。宗教や医学的な問題に触れながらも、ニュートラルで自然な結末に運んでいくのが見事。
個人的には、主人公や著者の腹の奥から絞り出てくる叫びのようなものが感じられたら、なお良かったかな。
この作品も、そうした小説のひとつだ。
筋としてはSFらしい設定、主題が一本走っているのに、しっかりエンターテイメント性を保ち物語物語している。
後半に進むにつれ、コンピュータ、ネット寄りの話が増え、ニューロマンサーやマトリックスといった仮想空間ものと、丸ごとスキャンされた自分の同一性、アイデンティティを問うところはイーガンの順列都市に通じるような気がした。
ドーキンスやデカルトなどに触れたり、それだけで1つ作品ができそうな未来の様式がさらっと登場していたりするが、あくまで物語を引き立てる要素としてうまく使われているため、全く違和感なく楽しめる。宗教や医学的な問題に触れながらも、ニュートラルで自然な結末に運んでいくのが見事。
個人的には、主人公や著者の腹の奥から絞り出てくる叫びのようなものが感じられたら、なお良かったかな。
死後の魂にまつわるストーリで、ソウヤーらしく、楽しめる活劇的SFに仕上がっています。死後の魂を取り扱っていますが、お気楽に一気読みが出来て、息抜きによろしいのでは。
『さよならダイノサウルス』『スタープレックス』では
ありったけのアイデアをぶち込んでそれらを見事にまとめ上げる、
という技巧を見せたソウヤー。
本書では『アルジャーノンに花束を』や『夏への扉』のような出だし。
一般向けのエンターテイメントかと思いきや、
(本作では数少ない科学的ifである)スーパー脳波計ひとつをもって物語は一気にSF色を増して来る。
とはいってもSFに親しんでいない人にも充分理解できる範囲。
ストーリー面でのifは魂と死後の生、もうひとつ挙げるとするならニューロンをコピーすることで人格を形成する、ということだろう。
ありったけのアイデアをぶち込んでそれらを見事にまとめ上げる、
という技巧を見せたソウヤー。
本書では『アルジャーノンに花束を』や『夏への扉』のような出だし。
一般向けのエンターテイメントかと思いきや、
(本作では数少ない科学的ifである)スーパー脳波計ひとつをもって物語は一気にSF色を増して来る。
とはいってもSFに親しんでいない人にも充分理解できる範囲。
ストーリー面でのifは魂と死後の生、もうひとつ挙げるとするならニューロンをコピーすることで人格を形成する、ということだろう。
後半になると単なる物語上の装飾としか思えなかったものが次々と統合されてきて、
大仰なSF的プロットではない、さりげない事柄でもそれができるソウヤーの力量を感じる。
その感覚は上質のミステリを読み解く感じと同じである。
物語の印象として静かなトーンで終わるのかと思いきや、
SFの王道ともいえる爽快なラスト。
このラストのまとめ方が読後感を非常に良くしている。
コアなSFファンからミステリーファンまで、あらゆる読者にマッチする優れた作品
です。
「ゴールデンフリース」でも登場する得意のAIものですが、冒頭で明かされる通り、
主人公本人のシミュレーションが犯行に及ぶという、とんでもないストーリーに加え、
夫婦のすれ違いを軸としながらも、医学、科学、ミステリーをミックスしながら昇華
する感動的なエンディング。翻訳ものであっても読み易く、SFビギナーでも大丈夫
でしょう。1995年度ネビュラ賞に輝く傑作です。
です。
「ゴールデンフリース」でも登場する得意のAIものですが、冒頭で明かされる通り、
主人公本人のシミュレーションが犯行に及ぶという、とんでもないストーリーに加え、
夫婦のすれ違いを軸としながらも、医学、科学、ミステリーをミックスしながら昇華
する感動的なエンディング。翻訳ものであっても読み易く、SFビギナーでも大丈夫
でしょう。1995年度ネビュラ賞に輝く傑作です。



