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逃亡くそたわけ
絲山秋子
価格: ¥1,365 (税込)

単行本
出版社: 中央公論新社
発売日: 2005/02/26
ISBN: 4120036146
おすすめ度:4.0
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「そいぎんた」への旅
躁鬱病の「あたし」と鬱病のなごやんが福岡の精神病院を脱走。なごやんとともに古い車で逃亡する「あたし」・二十一歳の夏の物語。
九州の土地土地が印象深く映し込まれている見事なロードノベルである。「あたし」の話す博多弁(ちらりと登場するその他の九州地方の方言)も堪能させてもらった。多くの人が指摘しているとおり、著者の類まれな方言センス?に感心した。(と言って、博多弁を知っているわけではないけれど)

著者の本には、内容と作品の醸す味わいが異なるものが多いという印象がある。本作も、切実で苦しく、常に終わりの予感をはらんだ物語なのに、豪快でユーモラスで開放的なイメージ。不安や感傷が覗くけれどあくまで時々(だからよけいに効くというところがある)。博多弁がバンバン出てきて、九州の熱くて広々とした大地を巡る話なのだから、線の細い物語になるはずもなかろう。このギャップを「おもしろい」と感じるか、「物足りない」「書けていない」と感じるかはそれぞれだと思う。わたし自身はおもしろく読んだが、これが正解か・・・と問われれば、わからない。ただ、病や脱走、犯罪行為などがぞんざいに書かれているわけではないと思うし、九州のどっしりとした土地柄と、「わたし」の土着的感性がいい具合に重石になっていると感じた。軽みはあるけど軽々しくはない。

なごやんがとてもチャーミングで、二人の関わりがいとおしく、せつなく思えた。博多をこよなく愛する「あたし」と、出身地の名古屋を疎みかたくなに標準語で話す「東京オタク」のなごやん。けれど言うほど名古屋嫌いじゃなく、それどころか愛着が見え隠れして、逃亡の果てに彼は「くそたわけっ」と名古屋弁で叫ぶ。ふるさとを恋い慕う物語でもあった。
単なるドタバタ、得るところが何もない
あちこちで評判がよく、過去に直木賞候補になったこともあり
読んでみたのだが・・・。単なるドタバタで、読み手を笑わせ
ようとしていることは分かるが、それ以外には得るところが何も
ない。ただ車で走って、無銭飲食、当て逃げ、万引きなど、やっては
いけないことをやりながら逃げ回る。この作品のどこに共感したら
いいのだろう。読後の余韻もなし、心に残ることもなし。ラストも
プッツンと途切れてしまったようで、後味が悪かった。
逃亡にゴールはない
逃亡というのは、ある場所を後ろに置いていくだけで、目的地もゴールもなく、だからこその終わり方。終端には夢も希望もなく、旅の途中にこそ夢は存在しているのは、厳しい真実でもあります。

とは別に、切ない(でも乾いた)二人の関係と、圧倒的なリアリティ(薬、車、マヨネーズ等々の小物への気の遣い方が絶妙!)が、この(夢のような)物語を単なるファンタシー以上のものにしていて、それがまた気持ち良かったです。
物語のその後
九州を舞台にした精神病院からの逃亡とそれにともなう車による九州旅行の話しです。精神病院への入院の経緯、逃走の目的、同行者で逃亡を伴にする「東京」にしか価値を認めない名古屋出身者の通称「なごやん」の伴に逃亡する理由など、理屈としては曖昧さを感じたりもするのですが、そこにまた、曖昧だからこその現実味を味わえます。

九州弁を喋る「私」と標準語を操る名古屋出身の「なごやん」との会話も、どうでも良い話しや、共通の「精神疾患」「うつ病」の話しなどが心地よい力の抜け方でよかったです。

物語というのは、必ず終わりがあり、作者によって終わらせられたり、綺麗に切られたりします。私はいつもその後が気になります、いったいこの人たちはこの後どうなったのであろうか?と。小学生の頃体育館でみんなで観た「小さな恋のメロディ」という映画で(話しの筋とかはっきり憶えていないのですが)主人公であるローティーンの男の子とローティーンのヒロインが両親や周囲の人たちから逃亡して線路の上をトロッコで逃げるシーンで終わるのです。映画として綺麗な終わりなのですが、私はその後が気になるのです。果たしてこの後この子たちはどうなるんだろう?と。逃げられるわけないんです。きっと連れ戻されるのです、映像として綺麗な終わりですけど。同じ様にこの物語の「私」と「なごやん」のその後が気になります。それぞれどんな生活になっていったのか。

そんな、その後の事を考えるのが好きで映画をみたり、本を読んだりします。だから、「良かったね」だけで終わってしまう映画や本は、私にとってはちょっと残念です。
最初から最後まで小技が効いた『上手い』小説。
ミニシアターで上映される映画みたいな小説。

自殺未遂で入院させられた躁鬱の「あたし」が、24歳の茶髪で気弱な会社員「なごやん」を無理やり誘って病院から逃亡、彼が広島のベンツと呼ぶボロボロのルーチェ(懐かしい)で九州を巡る間の出来事が描かれる、という単純な物語だ。登場人物もこの二人だけだ。

だが、この小説は非常に面白い。それは、ストーリー自体は単純でも、テンポのいい文章、博多弁と名古屋弁という二つの方言、あたしとなごやんのチョットした会話、逃亡中に起こるこまごまとしたトラブルなどの小技の使い方の上手さなのだろう。

旅(逃亡)の終わりをどうまとめるのかと思ったりしながら読み進めたのだが、ラストシーン間際の、あたしの「今日何日?何日たったんやろうか」との問いに対して、「9月18日」と答えた後のなごやんのつぶやき(つぶやきとは書いていないがたぶんそうだろう)を目にしたとき、思わず心の中で「上手い!!」と叫んでしまった。そして、最後のなごやんの叫び。もう唸るしかない。

一歩間違えればあざとさを感じさせそうだが、そう感じさせないギリギリの上手さがこの著者にはある。純文学系の作家だが、読者に楽しんでもらおうというサービス精神が旺盛な作家だと思う。



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