小川さんの作品は博士の愛した数式しか読んだことがないので、てっきり温かみのあるストーリーを主に描く方かと思いきや…。いやはや、こんなサイコパス風味なモノも書ける方だとは。
情景を美しく描き出した文体に魅せられて読み進めていたら、何時の間にか「薬指の〜」の主人公のように日常から異世界へと切り離されていくような感覚に陥っている自分に気がついて、この方の持つ世界観にただ驚嘆するしかなかった。「六角形の〜」の方も、切ないストーリーの中に二度と覚めない夢の中に引きずりこむような怪しさを漂わせていてインパクト大。博士の愛した数式でファンになった方には、次にこの「劇薬本」を読むことはおススメしかねる。他作品で耐性を身に付けてからご賞味あれ。
薬指の標本 (新潮文庫)
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青髭的ミステリアスな作品。
主人公の女性は、
標本製作の助手のバイトを始める。
その“標本の館”は
昆虫や花、葉といった代物を扱うのではない。
ある少女は、火事で家族を失い
焼け跡に生え残っていた3本のきのこを
標本にしたくてやってきた。
ある女性はピアノの音。
靴磨きの男は死んだ小鳥の骨。
標本にできないモノはない。
そして、
一度標本化されたモノは
再び手にとって懐かしんだりされることもない。
標本師の弟子丸氏は言う。
標本の意義とは、
封じ込めること
分離すること
完結させること
ヒトはその目的のために
標本の館を訪れるのだ。
日々の受付事務を独りで淡々とこなしながら
時折訪れる弟子丸氏との密会を
楽しみにする主人公。
ある時弟子丸氏から赤い靴を
プレゼントされ、
どんな時も必ず身につけているように
命じられる。
まるで脚の一部のように
ぴったりとした靴。
靴磨きの男はそんな彼女に忠告する。
靴が脚を侵し始めている
靴を脱ぐように勧める男に対し
主人公は言う。
「根本的で、徹底的な意味において
彼に絡め取られているんです」
そしてそんな彼女の状況は
顔に火傷を負った少女が
“火傷”を標本にしてほしい、と
願いやってきたコトで変わってゆく。
弟子丸氏とともに、
標本室に消えていった少女。
彼女はどこにいったのか。
そして、
それを目撃した
主人公は何を決断するのか・・・
趣ある外観、内装で、
優しい光の差す館の描写に対し、
弟子丸氏とのやりとりや
密会の場、セックスの情景は
ひやり、としていて
さるきち身をこわばらせる。
ちなみに、この作品
映画化されているらしい。
さるきちはコワくて独りじゃ観れなそう。
もしも、
もしも、この標本の館が実在していたら、
さるきちは過去の“事件”の記憶を
標本しに訪れていたのだろうか。
そうしたら
摂食障害を発病することはなかったのだろうか。
そんなことを考えた。
主人公の女性は、
標本製作の助手のバイトを始める。
その“標本の館”は
昆虫や花、葉といった代物を扱うのではない。
ある少女は、火事で家族を失い
焼け跡に生え残っていた3本のきのこを
標本にしたくてやってきた。
ある女性はピアノの音。
靴磨きの男は死んだ小鳥の骨。
標本にできないモノはない。
そして、
一度標本化されたモノは
再び手にとって懐かしんだりされることもない。
標本師の弟子丸氏は言う。
標本の意義とは、
封じ込めること
分離すること
完結させること
ヒトはその目的のために
標本の館を訪れるのだ。
日々の受付事務を独りで淡々とこなしながら
時折訪れる弟子丸氏との密会を
楽しみにする主人公。
ある時弟子丸氏から赤い靴を
プレゼントされ、
どんな時も必ず身につけているように
命じられる。
まるで脚の一部のように
ぴったりとした靴。
靴磨きの男はそんな彼女に忠告する。
靴が脚を侵し始めている
靴を脱ぐように勧める男に対し
主人公は言う。
「根本的で、徹底的な意味において
彼に絡め取られているんです」
そしてそんな彼女の状況は
顔に火傷を負った少女が
“火傷”を標本にしてほしい、と
願いやってきたコトで変わってゆく。
弟子丸氏とともに、
標本室に消えていった少女。
彼女はどこにいったのか。
そして、
それを目撃した
主人公は何を決断するのか・・・
趣ある外観、内装で、
優しい光の差す館の描写に対し、
弟子丸氏とのやりとりや
密会の場、セックスの情景は
ひやり、としていて
さるきち身をこわばらせる。
ちなみに、この作品
映画化されているらしい。
さるきちはコワくて独りじゃ観れなそう。
もしも、
もしも、この標本の館が実在していたら、
さるきちは過去の“事件”の記憶を
標本しに訪れていたのだろうか。
そうしたら
摂食障害を発病することはなかったのだろうか。
そんなことを考えた。
事故で薬指が欠けてしまったことが原因で職場を辞めた「わたし」が
次に見つけた働き先は、標本作りをするところだった。ここを訪れる
さまざまな人たちは皆、思い出の品々を持ち込んでくるのだが・・・。
表題作を含む2編を収録。
どんなものでも標本にしてしまう弟子丸氏。そこで働く「わたし」は、
いつの間にか弟子丸氏に愛情を感じてしまう。だが、彼の心が分からない。
自分を見てほしい。振り向かせたい。その思いが「標本」と結びついていく・・・。
その過程は、読んでいてぞくぞくする。表題作「薬指の標本」は、不思議な
世界をのぞいているような作品だった。もうひとつの「六角形の小部屋」も
独特の雰囲気だった。懺悔室のようだが、そこは単なる「語り部屋」なのだ。
だが、そのひと言では片付けられないものがその部屋にはある。狭い部屋の
中には別の世界が際限なく広がっているようだ。ラストに感じる喪失感が
心に残る。どちらも作者の感性が光る作品だった。
次に見つけた働き先は、標本作りをするところだった。ここを訪れる
さまざまな人たちは皆、思い出の品々を持ち込んでくるのだが・・・。
表題作を含む2編を収録。
どんなものでも標本にしてしまう弟子丸氏。そこで働く「わたし」は、
いつの間にか弟子丸氏に愛情を感じてしまう。だが、彼の心が分からない。
自分を見てほしい。振り向かせたい。その思いが「標本」と結びついていく・・・。
その過程は、読んでいてぞくぞくする。表題作「薬指の標本」は、不思議な
世界をのぞいているような作品だった。もうひとつの「六角形の小部屋」も
独特の雰囲気だった。懺悔室のようだが、そこは単なる「語り部屋」なのだ。
だが、そのひと言では片付けられないものがその部屋にはある。狭い部屋の
中には別の世界が際限なく広がっているようだ。ラストに感じる喪失感が
心に残る。どちらも作者の感性が光る作品だった。
評判とおり透明で静謐な作品。どこかを突付くと、そこからこなごなに壊れてしまいそうなくらいに繊細で、微妙なバランスで保たれた世界。ディテールはリアルでありながら全く現実離れした世界。
「標本」という、いわば時間を閉じ込めた小空間。その中で、そこに収められたモノは永遠に残ったとしても、それを包括していた全体としての存在は消えているということ。存在の消失と永続性、モノに対するフェティシズムとエロティシズム。非常に雰囲気と香りを伴った、確かにフランス人好みの作品かもしれません。
「標本」という、いわば時間を閉じ込めた小空間。その中で、そこに収められたモノは永遠に残ったとしても、それを包括していた全体としての存在は消えているということ。存在の消失と永続性、モノに対するフェティシズムとエロティシズム。非常に雰囲気と香りを伴った、確かにフランス人好みの作品かもしれません。
ここのところ小川洋子さんにどっぷりはまっている。解剖学者養老猛司の愛弟子である布施英利も巻末に書いているように身体の消失感がこの本のメインテーマ。他者への依存から生まれる自己消失感。この「感じ」を、本来の精神的なものとしてではなく物理的、身体的なものに少しずつシフトさせながら描く。病は気から、ではないが精神的なものはいずれ身体へとおりてくる。ボディビルという身体への変質的こだわりから最終的に生首に至った三島由紀夫のように。静かに淡々と進むストーリながら読み終わってみると肉体的にどっと疲れている。これも身体へ強いのこだわりを描いた故なんだろうか。



