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午後の曳航 (新潮文庫)
三島 由紀夫
価格: ¥380 (税込)

文庫
出版社: 新潮社
発売日: 1968/07
ISBN: 4101050155
おすすめ度:4.5
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少年の狂気と大人の夢あるいは倦怠の一つの到着点
心理学者フロイトは人間とは悪の要素を併せ持つ生き物だと指摘しましたが、1.幼少期に悪を成せなかった賢しい13歳の少年達の孤独と思想的狂気、2.夢を抱きつつ真面目に息子と生きてきた出自の良い舶来品店を営む未亡人、3.庶民出の自分は選ばれた人間であると信じて疑わず、死と生を感じながら確信を持って生きてきた船乗りの男、の3人の物語。

本書刊行の昭和38年に学校では優等生の部類の少年らの思想的狂気を描いた三島には、彼の自死後に起こる家族内の或いは少年による凄惨は事件を予見していたと感ぜずにはいられません。また、死を身近に感じることで生もより鮮やかに輝くという船乗りの男の観念は、後の作品「憂国」へ繋がり、父を憎むという少年のテーマはカラマーゾフの兄弟の父殺しに代表されるよう文学の永遠のテーマの一つですが、三島の父という存在に対する諦観をうかがい知れる点もあり、十分に面白い(読み応えのある)作品だと思います。
どこが面白いんだ?
渋澤がべたぼめしてたが、どうなんだか。
モチーフ的にはいい。
母子家庭の少年の、母の愛人に対する憧憬、悪魔的な魅力をもつ主人公のあこがれる美少年、純粋な(要するに思慮のない)気持ちの果ての取り返しのつかない犯罪。
たまらん人にはたまらんのか。わたくしはしらけた
少年の狂気
≪夏≫夫を亡くし舶来洋服店レックスを営む房子の息子である登は船に興味があった。或る夏の日、登の希望により仕事の伝手で船を見学させてもらえる。そこでの案内人として房子は二等航海士である竜二と出会う。夫が亡くなって早五年だが、房子と竜二は懇意になり夜を房子の部屋で過ごす。隣の部屋であり鍵を掛けられた登は、大抽斗の隅から、二人の絡み合いを密かに見届ける。何より竜二は海の男として、登の英雄として現われたように思い、それを首領他一号から五号と仇名された優秀で危険なグループの仲間たちに話す(因みに登は三号)。竜二が房子と会えるのはたった二日間で、その後彼は夏の日差しのもと洛陽丸に乗ってまた大海原へと駆け出していった……。
≪冬≫十二月三十日になって、竜二が航海から帰ってきた。年が明けての出航に竜二は参加しなかった。房子と結婚して共にレックスで働くからだ。二人はその旨を登に告げ、パパと呼ぶように、などと父親らしく振舞う。登の部屋には鍵ももう掛けられなくなった。そんな状況に憎しみを抱いた登は、抽斗の間で英単語を覚えている振りをしてわざと見つかり、房子を困惑させようとする。しかし房子の部屋での竜二と房子の行為の後に、登は見つかってしまい、生まれて初めて母親にあちこち殴打される。そこでもまた竜二は父親らしく寛容に振る舞い、陸の人間、生ぬるい人間になってしまった彼に嫌気が増す。それらの経緯を首領に相談したら、「十四歳以下の犯罪は罪と認められない」という法律の下、竜二を毒殺する計画が立てられる。彼らは今十三歳で、あと一箇月で十四歳になるのだ。「今しかない」という思いで、竜二を招き寄せ、過去の海での回想に心地よく浸る彼に、睡眠薬の入った紅茶を手渡し、夢想しながら栄光の味を味合わせ殺してしまう……。

この作品は、ノスタルジーと狂気が融合された作品であり、何処かしら懐かしいような風景の中に、三島の観念的な汚濁というか、屈折した狂気が蠢いています。三島の肉体の美学が竜二に仮託されており、それを見る昇の目にも三島の視点が混在しています。首領の「世界は単純な記号と決定で出来上がっている」という十三歳にしてはあまりに虚無的な哲学は、『金閣寺』における柏木の哲学と照応され、これもまた三島の内界を表出しています。房子の部屋の様子や船内の様子やその他建物の様子などの情景描写がこれでもかというほど詳細に書かれていますが、これは恐らくトーマス・マンあたりからの影響でしょう。他のレビュアーさんも書かれているように、この竜二、房子、登、という三者の関係と結末は、ソフォクレス『オイディプス王』からの影響でしょう。父親という存在自体を悪とする子供たちの存在はそのままエディプス・コンプレックスの顕れです。まあ確かに、結婚して社会という虚構に落ち着いてしまう男より、大海原を太洋の下に疾駆する男のほうが魅力的だとは、私も思います。またこれも他のレビュアーさんが書かれていますが、少年犯罪の予言としての読みも本書は大きく可能ですね。大人の前で莫迦な振りをし、子供らしく振舞う賢く生意気な子供……。実際いますね、そういう子供が。大人が思っているより子供という存在は何を考えているか分からない、そして子供には大人の知らないところで子供だけの世界がある、ということを本書にて再確認させられる思いでした。ところで、三島の比喩表現は、美しく観念的なものも勿論ありますが、時折回りくど過ぎて、作者が意図しているか否かは不明ですが、何処となく笑えるものがあるような気がするのは私だけでしょうか。まあ、いずれにせよ、大衆にも迎合され得る作品ですが、入りやすいと思って入ったら、実は大きな毒が含まれていた、そんな作品です。うーんでも三島のパッションはやはり濃いですね!
耽美小説ですね。 三島入門編かもしれません。
少年団の首領の冷酷・刹那主義は興味深かったです。
美しい文章と、少年の大人びた心が印象に残りました。
それだけに、ラストの後味の悪さは精神的にきました。
油断して読んでいるとトラウマになるかも。
おもしろいです。
数年ぶりに再読しましたが。以前にも増して面白く読めました。
母親の房子が、睫が長くて瞼が薄くて華奢で色白と三島印の型に嵌ったものであり、
淫靡な安心感の内に読み進めることができます。
それにしてもタイトルが上手いです。内容を直訳すれば
「水夫と少年と未亡人」とでもなりそうですが、
「午後の曳航」ですから痺れます。



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