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もの思う葦 (新潮文庫)
太宰 治
価格: ¥500 (税込)

文庫
出版社: 新潮社
発売日: 1980/09
ISBN: 4101006148
おすすめ度:4.0
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水夫の話
 「彼はいつも最も簡單な言葉で彼の教理を説いてゐた。同じことを繰返し繰返しして云つてゐた。これは自ら恃むことに厚く最も勇敢な人々のみの爲し得ることである」。
 これは梶井基次郎が北川冬彦という人を評した言葉です(「青空文庫」より引用させて頂きました)。太宰もまた、「最も簡單な言葉で彼の教理を」「繰り返し繰り返しして云つ」ています。それがこの作品集に収められたうちの一つ、「一つの約束」に出てくる難破した水夫の話です。みなさんは、この本を手にしてください。そして、「一つの約束」を読んでください。難破した水夫の話を読んでください。この話は、「雪の夜の話」と「惜別」とにも出てきます。これも合わせて読んでみましょう。
 「一つの約束」では、第一線で戦っている日本の兵士とその家族を励ますため、水夫の話が登場します。戦地で戦った日本兵の誰も見ていない「美しい」行為を太宰をはじめとした、日本の文学者が文学として復活させる。それを読者が読む。戦地で死んでいった兵士とその家族との再会が、文学を通して実現するのです。太宰のこの行為自体は美しいのですが、兵士を戦地に、死に追いやった戦争を太宰は「美しい」と考えていたでしょうか。私にはそうは思えません。戦時下の太宰文学は、表面的には時局を賛美しながら、実は時局を批判しています。堀部功夫氏の言う「騙し絵」的文学、藤原耕作氏の言う「太宰的イロニー」がそこにはあります。時局賛美は、発禁処分を免れるための、彼の一つの苦肉の策でした。「惜別」の「周さん」は言います。真の愛国者は、国の悪口を言う、と。とすれば、日本を賛美した「周さん」は日本を愛していなかった、と解釈できます。太宰はどうでしょうか。彼は日本を愛していた、と私は思います。だから戦時下の彼の文学は、日本を批判する文章が隠されていることを前提にして読むのが、彼に対する礼儀なのです。生意気なことを言いました。失礼します。
 
思わず引用したくなる
太宰治の、弱さを美学とする精神が好きだ。
それは受け入れられるものではないのかもしれない。
弱さで飯は食っていけないし、誰も守ることすら出来ないかもしれない。
だが太宰の文学には、希望がある。
思ってはいたけれど、怖くて言えない、そう口の中で噛み潰していたものが、
太宰の文章の中で堂々と訴えられている。
それにどんな慰めよりも、救われる。
太宰治の精神が余すところなく収録されている一冊。
く、暗い・・・
太宰治を論じられるほどの者ではないのですが一言。太宰はやっぱり暗いですね。真面目すぎて外から見たら滑稽になっちゃってる、という人。そんなに深刻に考えんでもさ、と肩を叩きたくなる。現代に生きていたら自分と似たような人がわんさといる、ということを知ることができただろうに。最終的には死への道を進むところ東洋のドン・キホーテといったところでしょうか。悲劇は喜劇。
素直な人
太宰治は素直な人だなぁと思いました。如是我聞もそうなのですが私が特にそう感じたのは芸術についての一説です。いつの時代もお偉い先生方、作家たち、評論家等の芸術についての論争が巷で飛び交う中、こんなにも簡潔にしかもユーモアも交えて芸術をたったの1ページ半ぐらいで語れるのは太宰治が自分の作品にも他者の作品にも素直反応していたからだと思います。太宰治のように権威やブランドに恐れがなくなれば(勿論全くないとは言えませんが・・・)彼のように自分のしたい事に向き合えるのだと思います。太宰治の事をより知りたい方、何か叫びたいぐらいの不満がある方、面白くて気分もすっきりしますよ。お勧めです。
「如是我聞」を読むだけでも価値あり
 エッセイや解説など、小説以外の著作を集めた作品集ですが、この中には「如是我聞」が収録されており、これだけで十分読む価値ありです。

 このエッセイは、戦後の文壇を牛耳っていたであろう志賀直哉に対する罵詈雑言を中心に話が展開されています。
 志賀直哉の作品に対する批判にとどまらず、顔や言葉遣いに対しても強烈な悪口を書いており、はっきり言って品はありません。筒井康隆の「大いなる助走」を思わせます。(直木賞が取れなかった筒井先生が、文学賞レースをテーマに書いたフィクション。これも面白いですよ)
 しかし、これをあえて公表せざるを得なかった彼の怒りは十分に伝わってくるし、当時の太宰ファンは拍手喝采であったでしょう。

 そもそも私たちが学生のころ(今を去ること四半世紀前です)には、まだ「あなたは太宰派か、志賀直哉派(白樺派)か」というような質問をする教師がいました。でも、それも完全に勝負がつきました。
 今どき、志賀直哉なんて誰が読みますか。書店に並んでいる作品群を見ても、世間の人は太宰に軍配を上げています。

 太宰先生、戦後六十年を経て本物が残りました。あなたの勝ちです。



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