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卍 (新潮文庫)
谷崎 潤一郎
価格: ¥420 (税込)

文庫
出版社: 新潮社
発売日: 1951/12
ISBN: 4101005087
おすすめ度:4
Amazon ランキング: 175009位
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4谷崎のエッセンスが詰まった異色作
 関西と女性崇拝という谷崎文学のエッセンスが詰まった作品。しかしながら、本書で扱われる恋愛は同性愛、しかも女性の同性愛であり、さらには女性の関西弁の口語によって話が紡がれており、他の谷崎作品とは明らかに異なる色を放つ作品である。個人的には女性の同性愛そのものにフォーカスをあてた小説を読んだのはこれが初めてだったので、大変な衝撃を受けた。個人的には裸体の模写をきっかけに二人のヒロインが接近していくところに谷崎のエロティシズムを感じており、気に入っているところだ。この作品にはこの二人のヒロイン(園子と光子)に加えて、園子の夫と綿貫という2人の男性が登場し、最後には4人が密接に絡み、破滅への道を辿って行く。綿貫と光子はやっていることは同じようなものだが、光子の方にはそれほど不快感を抱かなかった。『痴人の愛』を読むと、自分までもが悪女に騙されているようかの気になるのに対し、本書では破滅に追いやられるのはあくまでも女性である園子だからかもしれない。

 冒頭で書いたとおり、関西弁を使うというのは斬新な試みではあったが、これは必ずしも成功していないのではないか。非関西人には読みにくいこと甚だしい。また、口語をそのまま使っているということで、段落分けがほとんど使われておらず、非常に読みにくい。この読みにくさがゆえに、途中で投げてしまう人もいるのではないか。
3実験???
この題は何を象徴しているのでしょうか。まさか絡まりあった人間関係を物理的に示したとは思えませんが。その後の「細雪」とは違い、舞台と時間が広がることはなく、かなり限定されています。昭和初期の社会の変貌を示唆する部分は最小限の舞台装置に限定されています。映像と違い、「告白」という形を借りた文章という手法ではそれほどスキャンダラスな印象を直接的に与えることはありません。最初は女性同士の関係、そして男性を含む不思議な三角関係、そしてもう一段ひねりの入った三角関係への転換と進んでいきます。細雪とは違い、最後には、たしかにそれなりのdenouementは用意されています。というよりも結末は最初から示唆されているといった方がいいでしょう。私は大阪弁を使った文体の実験小説と捉えました。そしてその文体とテーマはそれなりの平衡感を示しています。
4繊細に響く関西弁が、…
 ストーリーは、同性愛を導入口とし、晩年に孤独となってしまった悲しい女性の語りである。良家の生まれ・インテリジェンス・恵まれた家族環境にありがら、悪女:光子の虜となってしまう。その果て、光子の影にいる怪しい男と亭主との、まさに雁字搦めの卍となる。自身が開放された時には、亭主も光子も失っていた。その後ずっと女一人で、園子は生きて来たのでしょう。物悲しくともやたらに口に出来る話ではない。
 このお話を同姓愛文学と捉えるのが一般であるが、谷崎先生はそこを意図したとは思えない。むしろ、女の語り得ない悲しい一生の一形態を描かんとしたと感じます。また、繊細に響く関西弁が、ストーリーをいっそデリケートに仕立てる役割を果たしたとも記します。
4破滅の描き方
谷崎先生中期の代表作。

良家の若妻・園子(25くらい)と良家の令嬢・光子(23くらい、美女)との恋の顛末を描いている。

こう書くと、スキャンダラスとしかいいようがない、行き場のない恋である。ハッピーエンドというのはありえない。園子と光子は、アルゼンチンに逃亡して幸せに暮らしましたとさ、というのも、論理的にはありえるが、読者をばかにしている気もする。(そういうのも2006年的にはありだが)。

ハッピーエンドというのはありえないので(もちろん上記のような意表をついたハッピーエンドというのもありえるのかもしれないけど)、小説の展開としては、いかにその破滅を描くかというところに焦点が絞られると言ってよい。

考えられる力点は:
1. 破滅に向う許されない恋だからこそ燃え上がる肉欲の情熱に筆力を注ぐ(渡辺淳一系)
2.許されない同性の恋であるが、だからこそ、そこにあるかもしれない清らかな同性の愛情を描く(江國香織系)
3.破滅こそが美しい(太宰治系)
4.なんとなく破滅的な気分だった(辻仁成?)

谷崎は、3.に近いが、もう少しひねている。太宰は積極的に破滅を目指しているような気がするが(死に方を見てもそうだが)、谷崎は、おっとりした日常に、どうしようもなく避けがたく深い落し穴があることを描く。

語り口は一貫して穏やかな上方言葉。神戸っぽい。穏やかな中に、破滅に向かう人たちの物語が語られるのは、不思議な迫力がある。

そういえば、触れるのを忘れそうになったが、実は意外な結末も用意されていて読後も印象に残る一冊である。
5耽美
 
 意外な展開を繰り広げる日本屈指の同性愛の文学。
 今、巷に溢れかえっている同性愛小説とは、全くの別物です。
 由緒正しき「耽美」がここには存在します。

 読後。
 しばらくは、谷崎の世界から現実世界を見ることなかれ。



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