ひとつ前に戻る

東京・地震・たんぽぽ
豊島 ミホ
価格: ¥1,365 (税込)

単行本
出版社: 集英社
発売日: 2007/08
ISBN: 4087753832
おすすめ度:4.0
Amazon ランキング: 296828位
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極限状況を描いているわりには、人の本質に迫るようなものがない
極限状況を描いているわりには、登場人物の行動はいつもの豊島ミホキャラクターの範囲内にとどまり、深さを感じられない。
それでも生きて行く
5月のある日、東京を震度6強の地震が襲う。
地震の直前・直後から数ヵ月後まで
その地震に人生を狂わされた人々の苦しさ、哀しさ、辛さ、そして希望。
短編の中に様々な想いをちりばめた珠玉の作品集。

どの話も非常に重い。
もちろん地震後の話をしているわけだから
暗く、そして重くなるのも当然だ。
その中に何らかの希望を見つけられれば
まだ救われるが・・・。
ほとんどの話がまだそこまで行き着かなくて
自分のおかれている立場に呆然と立ちすくしている。
いざと言うときの人の脆さ、弱さ、醜さ、そんなものを
まざまざと見せられたような気がする。

きれいごとは言わない。
同じような立場になったら
この作品に出てくる人間のようになってしまうかもしれない。
それでも少しでも希望を持ちながら
生きていかないといけないんだろう。
そして生きて行くんだろう。
東京に大地震
東京に大地震が発生した時の様を描く。
ひとつ間違えば凄惨でパニック的なものになってしまうだろう。

しかし本作は東京に集う様々な人々にスポットを当てて、
その時の行動を上手に切り取る。

それまでの人生を振り返り行動に移す人。
なすがままに現状に流される人。

そういう人々の一つ一つの行動や心情を、
しっかりと掴む。

一つ一つの作品は短いのだが、
どこかあまたの片隅に残るものがある。力強い。
人の営みを知らず、たんぽぽは咲く。
東京で震度6強の大地震が発生した。
その時その場所で被害をうけた人々と、彼らに関わりのある人たち14人の
内面があぶりだされていく。
滞りない日常をたもつために、それまで押しこめていた心の滓が、生死の線引きを
かろうじて免れた時、吹き出してくる。あるいは、ささいな思いがよみがえったり
する。
どれもごく短い話だ。14人の主人公のうち、リンクする話もいくつかある。
とりわけ、同じ人物を別の二人の主人公が語る、それぞれの話はじわりと胸にしみる。
人はもろい。人は恨む。人は恐れる。人は醜い。人は悪事を働く。
まるで、負の精神のサンプルのようだ。
同時に、そのような人たちが極限状況で振り返るそれぞれの過去は、
どんなにいい加減であっても、あるいは不実さや惨めさにみちみちていても、
奇妙なリアルさで読む者の胸に迫ってくる。
なぜ、人は煩雑な現実に押しつぶされ、嫌悪に塗りつぶされた過去でさえ、
思い出してしまうのだろう。
すんなりとは認めにくい言動をする主人公たちに、読むうちに気持ちを寄り添わせて
いる私がいた。
なりふりかまっていられない人間のリアルで切実な内面を、いっそ愛おしいとさえ感じた。

作中に何度かたんぽぽが登場する。ふとカメラが切り替わり、何気ない風景を
映すように。たんぽぽの上には何事もなかったかのような青い空。
瓦礫の街をしらず咲くそれは、あるがままの強さも弱さも象徴するように、
私には思えた。

今、読むべき意味。
東京で起こる大地震を題材にした全14編の連作短編集。

ほぼ全ての短編がオープンエンドとなっていて、読む人によって捉え方が大きく変わるだろう。それはハッピーエンドにもバッドエンドにも。
各主人公たちは年齢も性別も、境遇も何もかもが違う。生き埋めになった主婦、妻子を残して会社に残るサラリーマン、大学院生、小学生…最後の一編を除き、それぞれの「その時」が描かれている。

そして、今年に入ってから、大きな地震が2回。
書き下ろしとはいえ、まさか時期を合わせたとは思わないが、この時期に発売された意味、読む意味を考える。
近い将来に発生すると指摘されている南海地震と東南海地震、その日の前に読んで見るのはいかがだろうか。何も出来ないかもしれないけど―でも。

私は、阪神大震災の被災者だ。今は遠く離れた街で暮らしているが、あの時、大好きな神戸の街がどのようになったか、今でも鮮明に覚えている。
そして、同時に、どのように立ち直っていったのかも。
希望や再生、輝かしい未来が必ずしも待っているわけではないけれど、私たちはその経過を見つめないといけない。そう思い返すと同時に、「その日の前に」を考えたい。そう思った。

「むちゃくちゃでも、やるっていったらやるの」―なぜなら、ここで震災から立ち直ったことがあるのは、俺しかいないかもしれないから。人がまたちゃんと元気になるんだぞってことを示すには、俺が動くしかないかもしれないから。  本文185Pより



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