ONE(ワン) (集英社文庫)
リチャード バック/Richard Bach/平尾 圭吾
価格: ¥680 (税込) 文庫 出版社: 集英社 発売日: 1996/12 ISBN: 4087603067 おすすめ度: ![]() Amazon ランキング: 140412位 発送可能時期: 通常24時間以内に発送 ![]() |
思うことは時々あったから単なるファンタジー以上のリアルさを感じてしまった。
戦争がない世界についての発想がおもしろい。
私にとってはあまりにも楽観的で退屈なストーリーだった。
まず第一に、人間は、もっと厳密に言えば自分達は
この世界で特別で重大なものなのだという大前提が寸分の疑いもなく作品中に張り巡らされている。
自分の見つけた「真理」とやらが、あらゆる人を幸福にすると信じて疑わない。
主人公となる夫婦はたくさんの別世界を見に行ってそこにいた人達と議論し
時として自分の持つ真理が通用しない現実を見せ付けられる。
にも関わらず、夫婦の思考にはあまり変化があったようには思えない
(単に物語の幕の引き方、話のまとめ方が弱いのもあるかもしれないが)。
それどころか見てきたことを自分の都合のいいように解釈して
自分達の「真理」がいかに正しいか再確認し勝手に自信を深めたりしている。
無邪気だ。
極端に言えばどの世界を見ても「すごかったね」で終わっているのだ。
文中に、この模様は暗喩の世界だ、なんてセリフがあったが
主人公達がどの世界に行っても特定の人にしか見えないゴースト
=特殊な状態になるのも、アメリカ人の自分達に対する特別視、過剰な自信の暗喩なんだろうか。
その意味で突如として飛行機が墜落、夫婦が死別したシーンは、
不謹慎ながら非常に痛快だった。
何しろ作中で初めて彼らの存在と信念に打撃が与えられたのである。
ここまで見てきたたくさんの対岸の火事から得た教訓を
どう生かして、現状を受け入れていくのかが見ものだと思ったのだ。
だが現実問題として起こったはずの危機的状況も
彼ら元来の信念と怒りの力で手っ取り早く打開されてしまった。
その世界では彼らは特別ではなかったはずなのに
他の世界から帰って来る時と同じ原理で帰ってきたのだ。
これぞアメリカン!というか、ご都合主義もここまでくるともう救いようがない。
(「暗喩の世界」発言を拡大解釈すればもしかしたらこの作品自体が
作者のアメリカに対する皮肉なのかもしれないなどとさえ思う。それくらい登場人物が浅いのだ)
と、ここでこの本は9.11のだいぶ前に書かれたものであることに気付いた。
9.11の前のアメリカ人は実際こんなもんだったのだろう。
救いようもなく浅はかで無邪気。
かわいそうだから星+1
アメリカ的オプティミスティックな世界観はどうしても好きになれない。
人類が生きるうえで乗り越えるべき、本質的な概念を語っている。
本来は、重たい内容をできるだけ読みやすく扱おうと
しており、また内容は真理であると感じる。
ただ、まどろっこしいと思う人も多いのではないだろうか。
深い内容を分かりやすく書こうとしているものの、すっきりしない感じは残る。
いくつかのインプリケーションを、与えてくれる学びの書的な読み物。
いくつもの選択肢の中から、ひとつを選び辿る人生。
意識して、そのひとつを選ぶこと、その大切さ。
平和な世界を築くための、いくつかあるうちのひとつのアイデア。
ひとつの命が、いくつもの時間と世界とを巡り歩く、多様な人生。
思想による争いを回避する、たったひとつの冴えたやり方。
ひとつのアイデアが浮かぶまでの過程。
万にひとつの偶然。
すべては繋がり、「One」ひとつである。
思い込みに囚われて悲しみに沈み、そこから抜け出すまでを描いたシーンでは、思わず行間に引き込まれてしまい涙が出てしまいました。
戦争が血を流さないスポーツに生まれ変わった世界には、本当にそうなればいいと願いを抱いてしまいました。



