実は モーダルな事象―桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活 の印象から
奥泉光 と言う作家には多少の警戒感を持っていたのだが。
ところがどうだ。 この鳥類学者のファンタジアは 分厚い大作ながら
この独特の(主人公の)語り口が どうやらピッタリ来た様で
リーダビリティが大変良い感じ。
ページをめくるのが楽しみだった。
小説的に説明する気も全く無く 当然の様にタイムスリップなど
主人公のジャズな性格にピッタリ。
作家に説明する気が無いので 読者としても突っ込む隙も無いわけだ。
青く光る猫、時空を旅するピアニスト。
SFの様なファンタジーの様な 音楽歴史SF幻想ユーモア小説。
音楽ファン、ジャズファンなら 生涯手放せない本になるだろうが
そうでない読者にも是非購入して一読を勧めたい楽しい本である。
鳥類学者のファンタジア (集英社文庫)
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「簡単にコード進行をメモ書きした譜面を渡すと、わたしがプロデビューした頃からの付き合いであるベースのリンゾウさんは、ウッドベースに寄りかかる姿勢で、ほう、とちょっと意外そうな顔で譜面を覗き込み、それを横目にわたしはソロで勝手にはじめ、かなり長いフリー・コンセプトの序奏のあと、混沌のなかからメロディーの輪郭をじわりと浮かび上がらせ、それからツーコーラス終わったところで、眼で合図したリンゾウさんは、しかし髭面でにやにや笑うばかりで、もう少しピアノにソロで弾かせようという心づもりらしく、ドラムスのアキビンを眼で制して動く気配を見せず、すっかりあてが外れたわたしは、じゃっかん前のめりになりつつ右手と左手の打鍵のずれでもってリズムをつくりだしながら、緊張と焦燥と快楽のおりなす燃焼感のなか、全力疾走でアドリブを続け、陸上でいうなら競技場を五周くらいしても、しかしリンゾウさんはゆるしてくれず、クソッ、やってくれるゼ、とわたしは内心でののしりつつ、もはやわたし自身の支配を離れて大胆なところへ走り出してしまった「音楽」に追いつこうと、必死でリズムを支え、フレーズを繰り出し、それでも追いつかなくて、とうとうつんのめって前に倒れ込み、崩れ落ち、「音楽」が混沌に呑み込まれかかった、まさにその瞬間をとらえて、リンゾウさんが開放弦のE音をどかんと鳴らして空間を重たく充実した素材で埋めつくし、間髪をいれずにアキビンがスネアのリムショットから、フォービートの鋭いリズムを叩き出したときには、狭い店のなかに、ジャズという音楽にとっての、最も晴れがましい時間が忽然と姿を現し、目のくらむような戦慄と幸福感をわたしは同時に味わった。」(40ページ6行目より。)
ジャズが好きな作家がかいたのではなく、ジャズ・プレーヤーでもある作家がかいたジャズを題材とする小説というのはたぶん少なくて、私が読んだことがあるのは、ピアニストの山下洋輔氏と、テナーサックス吹きの田中啓文氏の作品と、そして、本作「鳥類学者のファンタジア」。
奥泉光氏は、自身もジャズ・バンドを持つフルート吹きで、HPでは、本作にまつわる曲を公開もしている。
句点なしで、一気に読ませるこの文体を味わえただけで、読んでよかったと思った。
本作は、ジャズピアニストの希梨子(大西順子がイメージされた。。)が時間と空間を越えて旅するファンタジー。紹介したような、ジャズ好きな人にはたまらない文章が次々と出てくる。
ストーリーの方もたまらない。なんと、最期には、ニューヨークであの人と共演までしてしまうのである。
おすすめです。
ジャズが好きな作家がかいたのではなく、ジャズ・プレーヤーでもある作家がかいたジャズを題材とする小説というのはたぶん少なくて、私が読んだことがあるのは、ピアニストの山下洋輔氏と、テナーサックス吹きの田中啓文氏の作品と、そして、本作「鳥類学者のファンタジア」。
奥泉光氏は、自身もジャズ・バンドを持つフルート吹きで、HPでは、本作にまつわる曲を公開もしている。
句点なしで、一気に読ませるこの文体を味わえただけで、読んでよかったと思った。
本作は、ジャズピアニストの希梨子(大西順子がイメージされた。。)が時間と空間を越えて旅するファンタジー。紹介したような、ジャズ好きな人にはたまらない文章が次々と出てくる。
ストーリーの方もたまらない。なんと、最期には、ニューヨークであの人と共演までしてしまうのである。
おすすめです。
現代の女性ジャズピアニストが、1944年のベルリンに
タイムスリップする〈タイムトラベル〉ものにして、音楽SF。
戦局の悪化に伴い、オカルティズムに傾斜していくナチスドイツと
神霊音楽協会が企てる一大謀略に、主人公と当時渡欧していた
彼女の祖母(天才ピアニスト)が否応なく巻き込まれていきます。
オルフェイスの音階、宇宙オルガン、フィボナッチ音律、
ピュタゴラスの天体、ロンギヌスの石……。
伝奇的な意匠が、これでもかというほど散りばめられ、
全宇宙規模の壮大なSF的奇想が繰り広げられます。
しかし、そうした宇宙の神秘や真理といった形而上的なるものを
主人公はあっさり受け流し、物語のなかを軽やかに駆け抜けていきます。
何ものにも囚われない自由な精神―。
それこそがジャズの信条、ということなのでしょう。
タイムスリップする〈タイムトラベル〉ものにして、音楽SF。
戦局の悪化に伴い、オカルティズムに傾斜していくナチスドイツと
神霊音楽協会が企てる一大謀略に、主人公と当時渡欧していた
彼女の祖母(天才ピアニスト)が否応なく巻き込まれていきます。
オルフェイスの音階、宇宙オルガン、フィボナッチ音律、
ピュタゴラスの天体、ロンギヌスの石……。
伝奇的な意匠が、これでもかというほど散りばめられ、
全宇宙規模の壮大なSF的奇想が繰り広げられます。
しかし、そうした宇宙の神秘や真理といった形而上的なるものを
主人公はあっさり受け流し、物語のなかを軽やかに駆け抜けていきます。
何ものにも囚われない自由な精神―。
それこそがジャズの信条、ということなのでしょう。
岩波の 図書 2006/11号に青柳いづみこさんがこの作品について長文の賛辞を書いているのを見た.目下 Mosse の Labyrinth の後遺症に悩まされているので,飛びついた.まずイントロの急勾配に圧倒され,本論で勾配が急にゆるくなるのにめまいがし,しかしおしゃべりの速度と密度が一向に衰えないのに尊敬の念を覚えた.近頃こんなに力強い日本語のおしゃべりを読む経験はしたことがない.話の方も,1944年末の Berlin であるし,Orpheus 音階だの Lance of Longinus だの宇宙オルガンだの,魅力的アイテムがごった返している.さすが本物の作家だけあって構成力に不足はない.気が晴れる感じで,作者と青柳さんに御礼言上するしかないが,不思議なことに後遺症はそのままのこった.思うに 13世紀の大虐殺と聖杯の物語は,聖 Longinus の剣より強いらしいのだ.しかしこの手の壮烈なおしゃべりは大歓迎なことは言うまでもない.
鳥類学者とは、ジャズのチャーリー・パーカー(渾名はバード)を指しているものと思われます。主人公のジャズ・ピアニストの語り口は、自分へのツッコミがあったりと、最初はやや取っ付きにくかったです。が、読み進めるにつれて、それがジャズに通ずるリズムを意識した文体として書かれたようで、だんだんとノッて来るんですよね。異次元に迷い込む際の曖昧な境界線が、細密な表現でとてもうまく表現されていると思います。タイムスリップしたベルリンで繰り広げられる騒動も、怪しげな交霊会や海軍士官との恋など盛り沢山。そして流転の末の大団円は、ジャズが好きな私にとって、もうお見事!と言うしかありません。最後に読み終えて、あ~面白かったと心底思いました。著者もジャズを愛好されているだけあり、数々のディテールにジャズに対する熱い思い入れがたっぷりと詰まった、一大ファンタジーです。



