『鳩の栖』です。
短編5作が収録されていますが、それぞれの作品には関連は無く、独立した作品の短編集です。
『少年アリス』のようなファンタスティックな話ではありません。現実を舞台にした現実的な話。でもその中で、少年のピュアな心が繊細に描かれています。
それこそ、表題作に登場する水琴窟の音色のように澄んだ心理がみごとに浮かび上がってきます。
美少年が主人公、ということで、女性の方に人気の長野まゆみ作品ですが、男性の方が読んでも十分に楽しめるものです。どんなに汚れた大人の男であっても、少年時代はピュアなハートを持っていたはずですから。思い出してみていただきたいですね。
表紙イラストが、どこか懐かしい木造校舎ですが、収録されている作品のいずれもが、そんな学校を舞台にしていそうな、ノスタルジックな雰囲気を持っています。
古き良き、とまでは言いませんが、温かみのある世界観です。
鳩の栖(すみか) (集英社文庫)
|
今や美少年ものを数多く描かれて女子に大人気を博している長野まゆみさんの初期短編集。この作品集からはストーリーにあまり女の子が出て来なくなり、描かれている少年たちもある一定の特徴を帯びてきます。それでいて一人一人がキャラクターとして完成されているので、もうすごいとしか云えないです。長野ワールドに女子をぐんぐん引き込んでしまう、この世界観、構成力は圧巻。「白昼堂々」シリーズに続いて行ったと思われる、芯の強い少年たちの儚く美しい世界をご堪能あれ!
某大学の受験問題にも使われた小説「鳩の栖」。
繊細で壊れやすい年齢の少年達を、崩れるか崩れないかのライン上で表現する長野まゆみさんはすごい。
繊細で壊れやすい年齢の少年達を、崩れるか崩れないかのライン上で表現する長野まゆみさんはすごい。
長野まゆみさんの小説はアーティスティックで柔らかな印象のものが多いと思います。
でも、音が聴こえてきたり。
色が見えてきたり。
自分の周りの空気が変わったり。
そんなリアルな部分を内に秘めているということに気がつきました。
ファンタジーを書いても素晴らしい長野まゆみさんですが、こんな現実的な小説を書いても、やはり美しいです。
相変わらず美しく澄んだ世界なのですが、この作品では特に「静けさ」が強調されていると思います。
少年たちに訪れるいくつかの季節を描いた短編集です。どの話もそれぞれ味わいがあって捨てがたいのですが、個人的にはタイトルに「紺」のつく2編がおすすめ。他にも病床の少年と転校生のつかの間の交流を描いた表題作ほか、それぞれ儚くも美しい季節が描かれています。
長野まゆみを知らない方にも比較的読みやすい作品なのでは。現実にはけっしてありえないだろう、と思いつつも、どこかの街角にはこんな世界が潜んでいるのではないかと期待してしまうような長野まゆみ的世界、ぜひ経験してみてください。
表題作「鳩の栖」。
完膚無きまでの静謐さに包まれている。
完膚無きまでの静謐さに包まれている。
死を背負う少年と、見守る少年たち。
彼らは、作中で必要以上のことを語ったりはしない。
あるのは、季節が通り過ぎていく幽けさと、
雨の音と、水の落ちる音だけだ。
ゆったりと落ち着いて、
現在の時間の流れを忘れて入り込むことのできる作品だと思う。



