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大名屋敷の謎 (集英社新書)
安藤 優一郎
価格: ¥735 (税込)

新書
出版社: 集英社
発売日: 2008/06
ISBN: 4087204464
おすすめ度:4.5
Amazon ランキング: 58402位
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お金ではどうにもならない壁
尾張藩江戸藩邸に出入りして汲取りや庭園の維持管理、人馬の供給といった下仕事を請け負いビジネスとして成功させていった江戸の農民のたくましい様子がリアルに描写されている。様々な機会に抜け目なく金銭を稼ぎながら、最後には「武士にしてくれ」と頼み込み断られてしまうあたりに、金銭ではどうにもならないものが存在したことをまざまざと印象付けられた。
大企業相手のニッチビジネス
戸塚村の豪農、中村甚右衛門が、江戸の御三家のひとつ尾張藩上屋敷へのビジネスの模様が
描かれています。そのビジネスとは、糞尿の汲み取りや庭園掃除、さらには緊急時において
農民を待機させる人材派遣などです。この時代では、糞尿は農家にとって宝とも言うべき
貴重な肥料であり、お金を払ってまで買い取っていたという事実には、非常に驚きました。

大名屋敷の御用聞きをすることにより、家柄の信用力を高め、村の農民を使って下請に出して
いたといった部分は、現代に置き換えると、大企業のIT部門の開発・運用を、元請会社が
請負い、下請け会社に発注するといった部分と重なります。また、エンドユーザーが有名企業
であればあるほど、信用力が高まるといった部分も同じであると感じました。

また、幕末におけるペリー来航に始まる動乱時において、江戸から明治にかけて、大名屋敷の
御用聞きビジネスが次々と潰れる中、甚右衛門はこの危機をチャンスに変え、経営規模をさらに
拡大していくとともに、明治に至るまで長きに渡り繁栄し続けたといった部分は、いかに
甚右衛門が偉大であり、かつ先見性があったかということであると思います。
この部分は、非常に現代にも応用できると感じました。
そりゃ、家賃の二重取りってんじゃねぇのかい、大家さん。
 長屋の便所の汲み取り代が大家の副収入になったりする話は、落語にも出てくるが、
実際にそれが如何ほどの収入になったのか具体的な数字を出しながら明らかにするなど、
尾篭な話だが非常に真面目な一冊。

 水洗が普及するまではバキュームカーが来たり、それ以前は「汲み取り屋」
(と呼ばれていた)に料金を払って汲んでいただいていたことをご存知の方は50代
以上だろうか。
 高田馬場あたりの川をおわい船が上下していたのも、懐かしい。

 しかし、もっと昔の江戸時代は、重要な肥料として農民側からお金を出して
購っていたのだ。
 若い方はそれ自体が驚きだろう。
 こういった資料をどうやって探しだすのか、学者さんもなかなか大変なことだと思う。

 尾張徳川家の屋敷の汲み取り代から、大名屋敷にはどのくらいの人数が住んで
いたのか割り出したり、大名屋敷はいいものを食べているから汲み取り料は高い、
など江戸時代後期の町人から武士の暮らしぶりまで、あぶりだされて興味はつきない。
新書の良さが認識できる好著
 新書の良いところは、様々な分野の研究成果を手軽に楽しめるところ。この本は、そのような新書の良さに最適な題材だと思う。著者とともに編集者の目の付け所を評価したい。
 平成八年に資料整理が終了した豊島郡戸塚の豪農に残された「中村家文書」の研究成果を主体に、大名屋敷における肥と飼葉の流通実態を説明。大名屋敷が多くを占める都心部と周辺の農家との経済関係を分かりやすく説明してくれる。農家を取りまとめる豪農と大名屋敷の交渉ぶり、明治維新及びその後の豪農の立ち回り方等々読みどころは多い。
江戸の本当の姿を、私たちはまだ知らない
昨今の江戸ブームもあり、まるで見てきたように語る書籍や
江戸を舞台にしたTV番組もあふれている中、
「江戸の本当の姿を、私たちはまだ知らない」
という事実を本書は教えてくれます。

江戸の面積の7割を大名達の所有地が占めていたということ。
大名屋敷は軍事施設であり、詳細については明らかにされていない。
貴重な発見資料から事実を紐解いていく筆者の語りは、
まるで推理小説を読み進めるような楽しさがあります。
江戸時代を語る際に滅多に表舞台に名前の出てこない「農民」が、
この武士たちの生活を支えるために、
現代に通じるビジネスモデルを構築していたという事実。
利権争いや人材派遣、入札制度など、
意外にも現代のビジネスマンと仕組みも競争原理も
酷似しているスタイルに、親近感を覚えました。

豪農が、現代の代理店のエージェントのような機能を持ち、
武士社会を裏から支えていた事実は、
これまでまず語られてこなかった、興味深い内容です。
新書の帯にはちょっとセンセーショナルな煽り文句が
書かれていますが、
中身はいたって真面目な、濃い内容。満足度が高いです。

ドラマや江戸ブームの理想像的な内容を期待されている方には
お薦めできませんが、
想像や空想ではなく、史実から推察される、
あの時代の本当の姿を垣間見たい知的好奇心には
最大限に答えてくれる良書の一つだと思います。



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