20世紀ロシア文学の粋。長すぎる重すぎる圧制の下で、もがき苦しむ作家たちの暗く悲しい慟哭集でもある。
特にアンドレーエフの「霧の中」が素晴らしい。心を抉るリアリティあふれる繊細かつ容赦ない心理描写、卓越した色彩感、空気、雰囲気の表現が琴線に触れる。人物のセリフは耳に食い込んでくるよう。名訳のおかげだ。ラストは衝撃的で夜眠れなくなるほど。オスカー・ワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」を想起させる傑作。
ブルガーコフの有名な「巨匠とマルガリータ」は、キリスト教に重心があり、国際的な広がりをもつ壮大なスケールのわりには、ストーリーに入り込むのが難しい。空想が独創的で面白く、茶目っ気があり(猫が耳に手を突っ込みながら話すとか)、随所に輝く表現、興味深い描写があるが、ブルガーコフの代表作といえるのはやはり「白衛軍」だと思う。
ショーロホフの「ドン物語」はロシアの温かい魂が翻弄される悲劇を暗示するよう。一つひとつの動きのリアリティにうならずにはいられない。強烈な光を浴びたように、一度読んだら忘れられない。
アンナ・アフマートワの「ヒーローのいない叙事詩」は美しく、神秘的で、鮮烈。この語彙の豊かさ、感性のまぶしい輝き、想像力の奥行きの深さ(しかし女言葉を使わない邦訳を読みたかった。必要以上に女らしさをだそうとしている気がする。詩はロシア語で読むべきなのだろう)。
ロシア〈3〉/集英社ギャラリー「世界の文学」〈15〉
|



