華麗で業が深いプーシキン、明朗痛烈なゴーゴリ、残酷で暗いツルゲーネフ。。。名作は人生経験が増えるたびに読み返すと新発見の宝庫で目からうろこが落ちるので楽しい。だから全集は一生もの。
エフゲニー・オネーギンは随所に複雑で微妙なほのめかしが潜んでいて、終始官能的なまでの激しい人間心理の絡み合いに圧倒される。言うまでもなくオネーギンとタチアナの情念の炎に焦点がある悲恋の顛末だが、よく読み返すとレンスキーとオネーギンの関係はまばたきに値する。ペールキン物語にも同様の男の絆が激しく描かれているところがある。プーシキン自身が決闘で死んだのも、何か男同士の真剣勝負に憧れがあったからではないだろうか。チャイコフスキーの傑作オペラが生まれたのもそのオネーギン像への思い入れがあったからではないか。それでも原作には名曲にも映し出せない文章の力と美がある。ロシアの最高の文豪はやはりプーシキンである。
ゴーゴリの死せる魂は、笑うほどに哀切が増す傑作。人間観察の鋭さゆえにその描写は突き抜けた明るさを通り越して「痛い」。「鼻」など目ではない。プーシキンはこれを読んで大笑いしたあとに顔を曇らせ、「ロシア人がいやになる」。それでも見た目もかわいかったゴーゴリは、抱きしめたくなるほどサービス精神旺盛な愛すべき文豪。
それにひきかえツルゲーネフの意地悪さは好きになれない。こんなのが初恋ではたまったものではない。文章がそれほどうまいとも思えないし、プーシキンやゴーゴリ、チェーホフにあるユーモアや救いがないじゃないか。リアルで客観的ならいいというものではない。これも若い頃に読んだ印象を覆す「目からうろこ」体験の一つ。
ロシア〈1〉/集英社ギャラリー「世界の文学」〈13〉
|



