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螢坂 (講談社文庫)
北森 鴻
価格: ¥520 (税込)

文庫
出版社: 講談社
発売日: 2007/09/14
ISBN: 4062758318
おすすめ度:4.0
Amazon ランキング: 83979位
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いろいろあるけど
 人生の浮き沈みというのは、ほんとうに人それぞれだな、と香菜里屋シリーズを読むといつもそう思います。不思議な魅力を持つマスター工藤も、過去にはいろいろあったのでしょう。だからこそ、客の持ち込む”謎”がいとも簡単に解けてしまうのかもしれません。

 今回の作品は、全体を通して”待つ”というキーワードがぴったりくると思います。待つのは人ばかりでなく、自分の夢だったり幻の焼酎だったり。待ち続けた答えをようやく見つけた時、人はようやく安堵できるのですね。答えが見つかることは、必ずしも問題が解決するということではないけれど、それでも謎を抱えたままでいるより心は解放されるし、楽になれる。

 その手助けをするのが、マスターの工藤。客の話を聞いただけであれこれ推察し、誰も予想のつかなかった答えにたどり着く。この人はいったい何者なんだ!?と最初はいぶかしがる客も、いつしか古くからのなじみ客のような気持ちになり、いつまでもスツールに腰掛けている自分に違和感を感じなくなる不思議なビアバー、香菜里屋。度数の違う4種類のビールに、マスターおまかせの料理。どんなものを出されてもはずれがないという料理の描写がこれまた素晴らしく、もしかしたら自分でもできるかも、なんて幻想を抱きつつ、推理以外の部分でも楽しめる、1度で2度美味しい小説なんです。

 どうやらマスターも誰かを待っているらしい、ということがほのめかされているが(『雪待人』)、それがこの先どう展開していくのか、次作に期待しています。
誰を待っているのか
マスターもまた、誰かを待ち続けながらビアバーを営業している。ひたすら待ち続けているのかもしれない。
だから、訪れる客にさりげなく、最高のもてなしを続けているのかもしれない。
架空の物語が、俄然真実味を増すのは、その料理と会話の妙だろう。
過去の話
 2004年に出た単行本の文庫化。
 香菜里屋シリーズの第3作。5つの短編が収められている。
 安心して楽しめる一冊。謎・トリックとしては面白味に欠けるが、独特の緊迫感で読者を掴んでしまう。今回はわりとハッピーエンドのものが多かったが、話そのものは陰惨で冷たい。突き放されるような結末のがふさわしいようにも思うのだが・・。
 相変わらずマスターの料理は美味しそうだ。
香菜里屋 この店で全ての謎は解けます
 極上に美味しい料理と、心からくつろげる雰囲気。そして、魅力的なマスターが揃っている理想の店。
 東京は東急田園都市線の三軒茶屋駅にあるという「香菜里屋」、そこがその理想的な店です。細い路地にぼんやりとうかぶ白い等身大の大提灯にうかぶ店名でそれとわかるこのビアバーは、オーナーの工藤が作る天才的な創作料理と四種の度数の違うビールが売りの店なのですが、それだけでなく不思議な謎を奇麗に解きほぐしてくれる店なのです。
 少し不思議なこと、お客の胸の底にひっかかった何か、自分が巻き込まれた不思議な出来事の真相。それらが、アームチェアディティクティブの極みのような工藤の推理力によってきれいに解かれます。ふとした言葉、行動を工藤は決して見逃しません。決してハッピーエンドだけの結末とは限りませんが、謎の解決とともに一つの決着と心の平安がもたらされます。
 短編連作集ですが、どの作品にも味わいと余韻があってとてもおすすめです。
 本書は、『花の下にて春死なむ』『桜宵』に続く、シリーズ第3作目になるのですが、巻を増すごとに作品に奥行きが出て来ていて、ますますシリーズは面白くなっています。そして嬉しいことてに、巻末の解説で、次巻では店の主人の工藤の過去が語られるようでそれも楽しみです。



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