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ひたひたと (講談社文庫)
野沢 尚
価格: ¥600 (税込)

文庫
出版社: 講談社
発売日: 2007/05/15
ISBN: 4062757400
おすすめ度:4.0
Amazon ランキング: 114942位
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著者最後の作品集
2つの短篇と未完の小説『群生』のプロットを収録した著者最後の作品集である。
短篇は、語り手の独白で著される作品だが、官能美と恐怖を織り交ぜた作風は著者にしては珍しい。5人の語りによってひとつの形を成す、連作小説の形態をとる予定だったこの一連の作品は、ここに収録される2篇の完成度が高いことから、是非とも完成したものを読みたかった。
『群生』は、プロットゆえに荒削りな部分が目立つが、刑法上でなく、倫理上の問題として『罪と罰』を追及するテーマを持った意欲的な作品である。このプロットが洗練され、ひとつの小説としてもうこの世に発表されないことは残念でならない。
著者の息づかいが聞こえるようです。
野沢氏の作品は「破線のマりス」、「リミット」、「呼人」を読んでおり好きな作家の一人だったのですが、亡くなっていたとは知りませんでした。

本著は未完の連作「ひたひたと」と着手寸前だった「群生」が収録されています。

「群生」は「罪と罰」がテーマの重い作品ですが、どうも著者の死に結び付けて考えてしまい著者は、この作品で本当は何を言いたかったのかなぁ、と愚考してしまいました。

こんなに長いレジュメを書いて、細部を整えて作品にするんですね。
著者の息遣いが聞こえてくるようです。

是非一読してみて下さい。
『群生』連鎖する悲劇
登場する二人の父親の姿が痛々しい、突然の息子の自殺にすべてをかけてその理由を探ろうとする父親、娘と会う事もできずにただひたすらに読まれる事のない手紙を書き続ける父親、二人の父親の姿がまだ脳裏に焼き付いている、あるドラマでこんな台詞があった『あなたのせいよ、だってあなたは一人で生きているんじゃないものね、あなたはこの世界に関わっているの、どうしようもなく関わっているのよ』この『群生』を読んでそんなあるドラマの台詞を思い出した。
亡き人の息づかい
野沢氏最後の作品集。五篇の連作集となるはずだった小説のうちの二篇に加え、単行本にはなかった未発表の長編プロット『群生』が収められている。

連作は、五人の男女が五角形の部屋に集い、それぞれの秘密を語るという趣向の物語。全身に12の傷がある女性外科医について男が語る「十三番目の傷」。幼い頃性的被害を受けた女性が秘密を打ち明ける「ひたひたと」。いずれも衝撃的な意欲作だが、意欲より後味の暗さが勝っている感が。完成作品を読めば違った感想がもてたかも知れない。残念だ。

『群生』のプロットは、着手寸前のものとのことでかなり小説の形に近く、読み応えがある。心に空洞を抱えた人間たちの人生が幾重にもかさなり合う構造で、「罪と罰」というテーマに迫る。本当に完成作品を読みたかった。もしドラマ化されたらこの役は誰がいいか・・・と思わず考えを巡らせてしまう作品でもある。

ところで『群生』では、他の野沢作品にも例があるが、「手紙」が小道具として印象的に用いられる。だが「54歳の性風俗ブローカー」が娘に宛てて書いた七通の手紙の文章は、どこかそのプロフィールにそぐわない感じも受けた(プロット段階なので、完成時には手が加えられていたかも知れない)。ところでこの文の感触、どこかで読んだような覚えが・・・と考えたところ、野沢氏本人の文章(本の「あとがき」など)に似ているのだと思い至った。『結婚前夜』の「あとがき」でお嬢さんに宛てた短い手紙などと重ねて読んでしまう。「手紙」は野沢氏の「地」の文章に近いのかもしれないな・・・と勝手に想像しながら、今は亡き人の息づかいを感じる思いで、何度も読み返した。



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