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蔓の端々 (講談社文庫)
乙川 優三郎
価格: ¥700 (税込)

文庫
出版社: 講談社
発売日: 2003/04
ISBN: 4062737132
おすすめ度:5.0
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小説の世界に引きこまれた。
 禎蔵が、妻にと心に決めていた幼なじみの八重に思いを告げようとしたその時に、剣の友である黒崎が現れ、客の相手をしていた間に、二人は消えてしまう。
 ミステリアスな展開に引きこまれてしまう。
 小藩の抗争に巻き込まれていく禎蔵。作者は丁寧に下層に生きる人たちの心情と生活を描いていく。禎蔵の養父、仁右衛門の言葉が心に沁みるし、八重の生き方も受け入れられる。禎蔵自身を大木に巻き付いた蔓と比喩しているのが巧いと思った。読んだ後、しみじみとした気持ちになる。
乙川節を楽しめる長編
地方小藩(この作品では3万1千石)の藩士の生き方を上から下まで丸ごと収めた1編。
「霧の橋」「喜知次」に続いて、濃密な設定と精緻な筆運びで仕上げる乙川長編の真骨頂が楽しめる。
やはり、乙川優三郎は長編に限る。

この作品では、一介の下級藩士がいつの間にか藩政をめぐる改革の渦に巻き込まれ、しかも最先鋭としてそれを成し遂げる役割を果たす。
しかし結局は兵隊は兵隊。
ここに登場する男も女も、城郭を成す石垣の“蔓の端々”に過ぎなかった。

その“蔓の端々”の生活を、時には生き生きと、また時には寂しく描くところはまさに乙川節である。

ただ、文体がくどくてちょっと読み進みにくいところがあったかなという印象。
他の作品があまりにも良すぎるので、ここでは差し引いて星4つとさせていただいた。
正統な実力派登場
どなたかご指摘の通り、内容やその切なさ・どうしようもなさを、タイトルが見事に表している。
懸命で、実にまっすぐで。見捨てていけないものを、やっぱり見捨てておけない。そんな主人公はまさに清冽という印象。
そして、相手の心不在の若い恋から、試練を経て人として男として成長していく姿がいい。

また、当時の女性の状況、心情、そして今でも共通する想いなどもよく描かれており、この時代小説を豊かにしている。
読んでいて、藤沢周平さんの『蝉しぐれ』を思い出した。

明日を思い生きること
自身とは無縁の世界の出来事に翻弄される人の運命を、見事にタイトルにあらわしているなと感心してしまった。
大きな組織の中で、上にたつものの勝手で運命に翻弄される下にいる者達。彼ら・彼女らのしなやかな生命力の強さを感じさせるのは、乙川さんの凄さなのかなと思う。

冒頭とラストでは、登場人物の心情が随分と変わってきている。それは過酷な試練を受けたゆえであろうが、変わった自分を振り返り昔はよかったと嘆くか、明日のことを考え前向きに生きていくか。そのあたりの生きる姿勢を私たちに示してるように思えてならない。




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