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虚夢
薬丸 岳
価格: ¥1,575 (税込)

単行本
出版社: 講談社
発売日: 2008/05/23
ISBN: 4062147416
おすすめ度:4.5
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保安処分の闇
この小説を読んで著者を社会派サスペンスと評する人がいるけれど、私はそう思わなかった。
2005年7月15日、触法精神障害者法が施行された。
殺人などの重大な犯罪を起こしたものに、治療という名の下に、裁判を受ける権利を奪い、
冤罪である可能性も考慮せず、最高で無期懲役を「罰」として受けさせる法案である。
社会的入院(病気が治癒しているにも関わらず、保護者がいないため入院し続けている患者)
全国で40万人。
精神障害者の人権よりも、「健全」な社会を守るため、「異常」な障害者を治安管理の対象にする法案。
医者は患者の意見を聞き、行政に通告する義務がある。。。患者は本当の症状を医者に言えない。。。本当のことを言えば、永久に出られないから。。。(当たり前の話だが、ガンや脳卒中になった患者が行政に通告されることはない。)
ロボトミー手術(脳の前頭葉を切除する手術。患者を廃人にするとして批判され一時廃止された)の復活。
「処遇困難者」病棟の建設。「皮肉」にも地元住民の反対により、進まない工事。
社会的に注目を浴びた事件であれば、「責任能力」の有無など関係なしに強引に起訴する、検察庁の「起訴便宜主義」。
無くならない精神病院・福祉施設で起こる「虐待死」。
この国は精神障害者を闇に葬り去ろうとしている。決して「無罪放免」にしているのではない!

おかしなことだらけの現実
日本はおかしなことだらけになった。
その最たるものを描いたのがこの本である。
国民のまっとうに生きる権利を奪ったものは、病気であろうとなかろうと等しく裁かれるべきである。
ところが、昨今の殺戮者たちのほとんどが簡単に弱者扱いされ、刑を免れ社会に戻ってくる。

この物語はある意味架空の話ではない。
誰にでも起こりうる恐ろしい災厄であり、もし被害者になったら誰でもこの母親のような塗炭の苦しみの中に放り出されるのだ。
あるいは、家族の誰かが、親族が、もしかしたら自分がこの犯人とおなじ加害者となる日を迎えるかもしれないのだ。
配慮を欠いた刑法が放置されているのは司法の怠慢であり、こうしたことに及び腰のマスコミや国の態度を物語は明快に責めてゆく。

物語は半ばでやや中だるみになる。
風俗に勤める少女の設定に少し違和感を感じる。
だが、一人娘を殺された母親が人生を引き換えにして犯人を追う痛ましさがそれを補ってあまりある。
国も司法も医者もマスコミも夫でさえ頼みにならず、たった一人で娘の命を奪った男にふさわしい罰を与えるために命をかける母親の姿はあまりにも痛ましい。
いとしい娘を失った母親の至極まっとうな思いを愚かしいとは言えまい。
物語は精神の病で苦しむ側の苦悩も同時に描いている。
そちら側の苦しみも存在する以上、人は行いを等しく裁かれるべきで、一方だけを放免するのは新たな苦しみの連鎖を生んでゆくだけだ。

この難しいテーマをごく普通の人の視点でわかりやすく描いたことがこの本の成功につながっている。
読みやすいのでいろいろな人に読んでもらいたい。







非常によく出来ている
精神鑑定によって不起訴になった加害者、家族を殺された被害者と、その関係者、
といういくつもの視点で話が進んでいく。
非常によく構成されていて、混乱なく一気に読める。
加害者サイドの物語によって
刑法39条について、単純な批判をするのではなく、意味を考えさせられるのが
この小説の優れた点だろう。
伏線も張り巡らされて、ミステリーとしても成立しているし、
それがすべて「刑法39条」を考える材料になる。

人物たちが多少ステレオタイプだとは思うが、
これだけの内容と構成で1冊に収めたのだから仕方がないと思う。

被害者の憎しみ、悲しみ、葛藤が丁寧に描かれていた
精神鑑定によって起訴を免れた加害者に対する被害者の想いに正面から向き合った作品で一気に読んでしまった。もし自分の大事な家族を殺した加害者を街で見かけたら…というびっくりするようなシチュエーションから物語が始まり一気に引き込まれた。物語は被害者の視点と加害者の関係者の視点で交互に展開されていき、最後に被害者と加害者の視点が交わるのだが、最後まで目が離せない展開だった。被害者の憎しみ、悲しみ、葛藤が丁寧に描かれていて痛いほど伝わってきた。
重いテーマだけど面白い
私は特段に小説をたくさん読むわけではないのだが、
薬丸岳の作品は好きで呼んでいる。

今回は刑法39条と言う、日本の刑法論点の王道部分が基軸テーマ。
もっとも「精神疾患と、どう向き合うのか?」というほうが、今作では重い感じがする。
登場人物の関連性や、最後付近で裏をかく手法は過去2作品に続き顕在で、
エグイ描写もありつつ、色々な事を投げかけて考えさせてくれる。
ただ過去2作品をと比べて、「ん?またこのパターンか」と思えてしまうところがあった。
(まぁそれが作者の味だと言ってしまえばそれまでなんでしょうけど。)

裁判員制度がはじまったら、民間人が刑法39条問題ににぶち当たることが絶対あるはず。
専門書を読んだり、偉い人の話を聞くのは面倒で億劫だが、
本作のような小説を通して「自分だったらどう思うかな」と考えるぐらいは、
必要なんじゃないかな? ただ感情論に流れないためにも。。。
もっと多くの人に読んで欲しい作品だ。





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