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日和下駄―一名東京散策記 (講談社文芸文庫)
永井 荷風
価格: ¥1,029 (税込)

文庫
出版社: 講談社
発売日: 1999/10
ISBN: 4061976850
おすすめ度:4.5
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土地の勾配をたどる目線
まだ地面がいたるところで露出している頃の東京だ。草のにおいも漂い、雨が降れば泥だらけになる街並みだった。まさに地形がそのまま顔を出しているようだ。今の東京だとビルが多くて見晴らしが利かず、なんだか良く分からないことが多いし、第一忙しくて、ぼんやり散歩なんてわけにもいかないことが多い。たまたま、自分の生活区域が荷風の行動範囲と重なるところが多い。そうか・・こんなかんじだもんな・・と読みながら、その辺りの地形に思いを馳せ、今も尚残る土地の形にふと気付き、休日に散歩してみる。本書の当時は、まだまだ今日のようになるとは思えないわけで、なのに、当時の当たり前に過ぎる風景を丹念に描いていく荷風のセンスは素晴らしい。それでも当時次々に変容する風景に、荷風なりに危機感があったのかもしれない。ほんとうの「文人」だと思う。
荷風さんと散歩
 大正4年頃の東京の街って、こんな感じだったのだ。タイム・トリップして荷風さんと一緒に散歩を楽しむ。物売りの声、川の水の匂い、路地から聞こえる三味線の音。荷風さんはアメリカ・ヨーロッパ遊学から帰国したばかりで、どんどん美しさを失っていく東京の街を嘆いている。(ヨーロッパから帰って、「日本のこんなところがよくない、醜い」とつい口に出してしまうところ、個人的にはよく分かるなぁ。)

 だけど、それでも日本独特の味わいはまだまだ残っている。掘割の岸に物揚場がある。荷車の馬が身体を休め、馬方と一緒に柳の木の下で居眠りしている。物陰に牛飯やすいとんの露店が出ている。赤ちゃんを地面の上に捨てたようにして夫を助けて働く女房。痩せた鶏が餌を求めてちょこちょこ歩く。そういう場面を見て永井さんは「自分に画才があったらミレエのような絵を描くのに」と嘆くのだけれど、いえいえ、荷風さんの文章はミレエにも負けない魅力ある絵なのです。

 ところでこの頃の東京の建物で今でも残っていたらきっとクラシックな建物として珍重されているだろうけれど、荷風さんは悪趣味な建物が増えていると嘆いている。ということは、今の東京に建てられているたくさんのつまらないビルも、あと100年もたてば昔の香を残す素敵な建物として観光名所になったりするんだろうなぁ。




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