美食家として人気が出たのは、みんなが親しむきっかけとして悪くはないが、その後ぜひ「小説」にたどりついてほしい。
翻訳者としても多くの業績があり、随筆家としても一流には違いないが、小説作品をどれか一つでも──とりわけ本書収載の作品を読むと、根底から評価がくつがえる。
他の誰も書くことのできない、独自のスタイルをきわめた小説です。
センテンスが長いのは、翻訳を手がけてきた所為もあるかもしれないが、この文体でなければ、この「時間感覚」を書き切ることは難しいのかもしれない。何作か読んで馴染んでくると、一種の中毒症状をきたしますね。自分で書くときに、つい真似をしてしまう。
あなたも、ぜひ、真似た文体で何事か綴ってみてください。
これは、一種の「快感」です。
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金沢;酒宴 (講談社文芸文庫)
吉田 健一
価格: ¥987 (税込) 文庫 出版社: 講談社 発売日: 1990/11 ASIN: 4061961055 おすすめ度: ![]() Amazon ランキング: 44943位 発送可能時期: 通常24時間以内に発送 ![]() |
これは、傑作です。驚いた。最初、何だよ、これ、って感じで、その文章の冗長さに呆れながら、そのインテリジェンスの匂いぷんぷんする言葉の晦渋さに、怒りながら読んでいったのだけれど、次第に圧倒されていってしまった。
怖れいった。その晦渋さ、インテリジェンスも、その理由が読者に納得させるだけのものが、作品の中にちゃんと描かれてある。そして作品自体面白かった。自分の文学観が、少々変更されるぐらいの、ちょっとした衝撃があった。
東京の神田に住むある中年の男が、不意に金沢に移り住む。永住するのではなし、気ままに赴き、一軒の家を借り、様々な人を訪ね歩く。とにかくこの内山と呼ばれる主人公は、アイデンティティの一切を最初から喪失している。そして「時間がたたせるのではなくてたつものであること」において、その〝金沢〟という停止した時空で、ヨーロッパ/東洋という対立の軸を根本とした、あらゆる事態の融合を、茫漠と広がった目の前に風景に観る。
七〇年代日本の、傑作中の傑作の小説。
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