からくり仕掛けや錬金術の中から科学という普遍的な方法論が現われて、教会による知の体系の独占が終わり、交通と商業と金融の発展が貴族による資産の独占を終わらせた。19世紀英国に起きた変化の中で、召使い頭の息子に生まれた主人公は、大英帝国=世界の中心地ロンドンに出て、合成強壮薬によって大起業家へ、そして飛行機の研究、アフリカで放射性物質の採掘と、時代の先端を走り続ける巡り合わせとなり、自ら近代から現代への変化をドライブする主体であることを意識する。
社会構造の変化の中で、社会主義思想と資本家としての意識、階層を越えたいくつかの恋愛体験などにより、内面でも多くの矛盾を抱えることになるが、それでも活動を止めることなく、年月は過ぎ去る。そうして変わりゆく科学、社会制度、人々の精神などを凝縮したものとしての1人の人間を描き、人生を俯瞰して、20世紀の到来を告げた1908年作品。その叫びはさらに複雑化した現代に生きる我々の先駆けであり、ウェルズの示唆した人類の疾走は速度を増し続け、今も我々をさらっていく奔流となっていることが理解させられる。
トーノ・バンゲイ 上 (1) (岩波文庫 赤 276-4)
ハーバート・ジョージ・ウェルズ/中西 信太郎
価格: ¥798 (税込) 文庫 出版社: 岩波書店 発売日: 1953/09 ISBN: 4003227646 おすすめ度: ![]() Amazon ランキング: 446440位 発送可能時期: 通常24時間以内に発送 ![]() |


