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山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)
中島 敦
価格: ¥735 (税込)

文庫
出版社: 岩波書店
発売日: 1994/07
ISBN: 4003114515
おすすめ度:5.0
Amazon ランキング: 18730位
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圧倒された
本書で中島敦の著作をはじめて読んだ。

豊穣な表現力、悦に入る文章のリズム。
絶えることのない人間的実存への問い。
そして根源的哲学的な思考の透徹。

いま評釈していることさえ、僭越に過ぎる。

気に入ったのは、悟浄シリーズ。
西洋哲学を強く意識した内容が著者なりに昇華されており刺激的だった。
未完に終わったのが悔やまれる。
極上の短・中編小説!
自惚れと怠惰と隠された不安感によって身を滅ぼす李徴、真理を求めて方々の哲学をかじりまくった結果、我を見失う悟浄。
とにかく悲しくって切なくって(しかも読者自身痛いところを突かれて)、一度中島敦を読むとやみつきになります。
つんと澄まして警句を連発する芥川の進化版?、とも思える一歩踏み込んだ洞察には脱帽。
参考までに、『狼疾記』が好きな方には『かめれおん日記』がお勧めです。筑摩文庫から本格的な全集が出ているので、是非。
※絶望や切なさばかり強調してしまいましたが、決してそれだけではありません。『斗南先生』では心温まり、泣けます。『牛人』では観念とか思考とは距離をおいた、感覚的な恐怖感が味わえます。
山月記
自らの詩才を恃み、妻子を犠牲にしたゆえに虎になってしまった男の話。
硬質な文体から発せられる怜悧な文章が素晴らしい。短い文章の中に人間の業の哀しさが込められています。
注釈との戦い
彼が最後まで書ききった作品は少ないのですが、その作品はすべてが磨き上げられた璧のよう。
李陵、司馬遷、蘇武。有名な彼らを描いた『李陵』。生き抜く為に、生を意味あるものとするために、彼らが取ったそれぞれの方法とは。

『山月記』。現代の日本人にも当てはまる、「自意識」がテーマの一つになっており、自らの
「猛獣」について考えさせられるであろう作品。

ここで一休み。『名人伝』。すぐに読んでしまえるものの、数回読まなければ完璧に理解できない。多くの意味を含んだ作品。


師父の眼差と星空
 この「山月記・李陵 他九篇」の中に入っている小説「悟浄嘆異」。悟浄が師父・三蔵法師についてひとりつぶやくように語る。
***
 青白い大きな星のそばに、紅(あか)い小さな星がある。そのずっと下の方に、やや黄色味を帯びた暖かそうな星があるのだが、それは風が吹いて葉が揺れるたびに、見えたり隠れたりする。流れ星が尾を曳(ひ)いて、消える。なぜか知らないが、そのときふと俺は、三蔵法師の澄んだ寂しげな眼を思いだした。常に遠くを見つめているような、何物かに対する憫(あわ)れみをいつも湛えているような眼である。それが何に対する憫れみなのか、平生はいっこう見当が付かないでいたが、今、ひょいと、判ったような気がした。
師父はいつも永遠を見ていられる。それから、その永遠と対比された地上のなべてのものの運命(さだめ)をもはっきりと見ておられる。いつかは来る滅亡(ほろび)の前に、それでも可憐に花開こうとする叡智(ちえ)や愛情(なさけ)や、そうした数々の善きものの上に師父は絶えず凝乎(じっ)と愍(あわ)れみの眼差を注いでおられるのではなかろうか。星を見ていると、なんだかそんな気がしてきた。俺は起上がって、隣に寝ておられる師父の顔を覗き込む。しばらくその安らかな寝顔を見、静かな寝息を聞いているうちに、俺は、心の奥に何かポッと点火されたようなほの温かさを感じてきた。
***
涙が出る。



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