檸檬・冬の日―他九篇 (岩波文庫 (31-087-1))
|
生き急いでいる、という表現がぴったりの短編集。有名な「檸檬の爆発」にしても、そこにはニヒリズムが漂っているように読めなくもない。「冬の日」にしても、自分が生きている間に少しでも作品を世に残しておきたい、という作者の執念が伝わってくるようで痛々しい。
檸檬の香りが鬱を直していく。という話。が、檸檬の香りをかぐと、心が和むことがあるというのは、一度経験があることと思う。美しいもの。に惹かれる主人公の悲しみと憂い切なさや投槍がごっちゃになった精神の中で、安息を求め、[美しい]檸檬の「美しい」香りに最も惹かれる。京都の汚い通りを歩く度、ここが仙台や、宮崎といったどこか遠いところに来たつもりになる。という、文頭の文章には、梶井の感性が強く光る。ただ、租の感性は全文を通しては非常に弱く、小さな灯光として煌いている。


