秋立つまで 他3篇 (岩波文庫 緑 74-1)
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誰も「自分自身にさえ秘密にしておきたいこと」がある。嘉村は自分にとってのそんな秘密を、これでもかこれでもかと赤裸々に書きまくり、短い生涯を終えた。読み終えると世界や他者が、これまでとは全く違ったものに見えてくるような作品ばかりだ。数少ない自然描写が凄絶なまでに美しい。
山本夏彦さんがこの嘉村礒多を紹介している文章を読んだことがあります。たしか「途上」でした。普通の人が奇麗ごとでお茶を濁してしまうところを嘉村礒多は赤裸々に描いて煩悶します。それが新鮮でした。
この文庫の特徴は、正漢字正かなづかいで書かれていることです。また、内務省の検閲なのか、xxxxというふうに伏せ字の箇所が「業苦」に一カ所、「秋立つまで」に二カ所あります。ちなみに岩波の編集付記としては、「精神および身体障害に関わる不適当な表現があるが、原文の歴史性を考慮してそのままとした」、とあります。
嘉村礒多に興味を持ったなら、購入してみてはいかがですか。
表題作に、処女作「業苦」、その続編「崖の下」に「途上」を収めた一冊。現在では本書の収録作品を含めた12編を収めている『業苦・崖の下』(講談社文芸文庫)があるので、そちらを読めば事は足りるのだが、にも関わらず、本書はそれなりの存在価値をもつ。
ひとつは宇野浩二による嘉村についての思い出話を交えた解説が付されていることだが、最大の点は本書が旧字旧かな遣いであることだろう。初出時にできるだけ近い形で読もうと思うならば、本書を手に取るべきである。


