永井荷風と言えば、どうしたってこの作品が頭に挙がる。
「わたくしはほとんど活動写真を見に行ったことがない。」
この最初の一節に私は心をひかれた。
小説というものは未だ言葉の結ばれてあるものと信じていた少年時代、私にはこの一節こそが必要であったのだと思う。
現代的なものを忌むための一節。
活動写真というハイカラな文化は、荷風散人にとって、呪詛の対象でしかない。
厭世的な荷風の一節は、美しい女性・お雪との出会いと別れをともに可能にする。
決して、出会いだけではなく、別れだけではない。
それら二つをあわせもつ効果が、この一節には表れている。
私も現代的なものが嫌で、早く昔に帰りたいと思っていた。
その頃に出会った本作。
小説を読み始めた私には理解できない文体も少なくなかったが、当時もっとも記憶に残った一冊となった。
〓東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)
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荷風が投影された「わたくし」こと大江匡は、小説『失踪』の主人公種田純平の行動と心理の取材と、隣の部屋のラディオがうるさいという理由の為、向島は玉の井の私娼窟で出会ったお雪という女性と出会い、足繁く数カ月通うことになる……。
この作品は、荷風の幾分厭世感にも近い、古き良き時代への懐古心というものが如実に表現されていました。現代的なもの、新しいもの、見掛倒しなものに、荷風は些か嫌気が差していたのでしょう。銀座などの東京の中心ではなく、浅草という東京の周辺地方に自然と向かう大江の様子を通しても、そういった感情がヒシヒシと伝わってきました。また、大江とお雪の関係性が非常に美しく、会話も綺麗で、本来あるべき日本人の情緒ないし人情を感じることが出来ました。経済的な利益に惑わされずに、おでん屋を開こうとするお雪の生き方にも、頗る共感しました。
話の途中で、話し言葉ならまだしも、本来「わたし」と書くところを「あたし」、或いは「だけれど」と書くところを「だけど」と書くことに、大江が抵抗感を持ってるという表現がされていましたが、私はそれを今の時代の、卑猥な言葉とも言えぬ言葉が氾濫したネット社会における書き言葉に対する、私個人の抵抗感と重ね合わせて考えてしまいました。昭和初期で既に失われつつある日本に危機感を覚えていた荷風が、現代の殆ど完全に欧米化された日本の様や、このネット社会で用いられている言葉を観たならば、一体どんな気持ちがするのでしょうか。
それと、谷崎の『痴人の愛』を読んだ時もそうでしたが、私は一時浅草で仕事をしていた為、場所を想像しながら読めました。そして何よりも、頻繁に埋め込まれている木村荘八氏の挿絵が、それを後押ししてくれました。いずれにせよ、短い中に、哀しく美しいノスタルジーを感じられる名著です。
この作品は、荷風の幾分厭世感にも近い、古き良き時代への懐古心というものが如実に表現されていました。現代的なもの、新しいもの、見掛倒しなものに、荷風は些か嫌気が差していたのでしょう。銀座などの東京の中心ではなく、浅草という東京の周辺地方に自然と向かう大江の様子を通しても、そういった感情がヒシヒシと伝わってきました。また、大江とお雪の関係性が非常に美しく、会話も綺麗で、本来あるべき日本人の情緒ないし人情を感じることが出来ました。経済的な利益に惑わされずに、おでん屋を開こうとするお雪の生き方にも、頗る共感しました。
話の途中で、話し言葉ならまだしも、本来「わたし」と書くところを「あたし」、或いは「だけれど」と書くところを「だけど」と書くことに、大江が抵抗感を持ってるという表現がされていましたが、私はそれを今の時代の、卑猥な言葉とも言えぬ言葉が氾濫したネット社会における書き言葉に対する、私個人の抵抗感と重ね合わせて考えてしまいました。昭和初期で既に失われつつある日本に危機感を覚えていた荷風が、現代の殆ど完全に欧米化された日本の様や、このネット社会で用いられている言葉を観たならば、一体どんな気持ちがするのでしょうか。
それと、谷崎の『痴人の愛』を読んだ時もそうでしたが、私は一時浅草で仕事をしていた為、場所を想像しながら読めました。そして何よりも、頻繁に埋め込まれている木村荘八氏の挿絵が、それを後押ししてくれました。いずれにせよ、短い中に、哀しく美しいノスタルジーを感じられる名著です。
静かな感情が緩やかに流れている物語でした。東京の下町を舞台に老小説家とお雪との情の交流を綺麗に描いています。決して激しく交わることのない二人の感情。それが時間が進む上で近づいていきますが、決して交差することはないのです。
墨田川の辺で数多く起こったであろう、「綺譚」の一つ。昔の東京人の粋をいろいろな場面で感じることが出来ます。
墨田川の辺で数多く起こったであろう、「綺譚」の一つ。昔の東京人の粋をいろいろな場面で感じることが出来ます。
この作品は津川雅彦と墨田ユキで映画化されましたが、映画も情感あって、
ただ肉体を売り買いしている人肉市場ではなく、荷風の文章が持っている
情感まで伝えているような気がしました。小説としては、もういい歳の
上品なオヤジが若くてきれいなユキに惹かれて行く筋立てが、気持ち好いです。
挿絵も素晴らしいし、何度も、どこからでも入れます「抜けられます」。
ただ肉体を売り買いしている人肉市場ではなく、荷風の文章が持っている
情感まで伝えているような気がしました。小説としては、もういい歳の
上品なオヤジが若くてきれいなユキに惹かれて行く筋立てが、気持ち好いです。
挿絵も素晴らしいし、何度も、どこからでも入れます「抜けられます」。
これを読むと、『男の人も情をもつのだあア』と安心する。
お雪さんにも語り手の大江氏にも感情移入するから、胸が苦しくて一気に読めなかった。
一度読み終えてからは何度も読み返すことになった。
荷風先生の文章は超!魅惑的。
お雪さんにも語り手の大江氏にも感情移入するから、胸が苦しくて一気に読めなかった。
一度読み終えてからは何度も読み返すことになった。
荷風先生の文章は超!魅惑的。



