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春昼(しゅんちゅう);春昼後刻(しゅんちゅうごこく) (岩波文庫)
泉 鏡花
価格: ¥483 (税込)

文庫
出版社: 岩波書店
発売日: 1987/04
ISBN: 4003102754
おすすめ度:5.0
Amazon ランキング: 144601位
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お棺に入れたい作品

東京から逗子に来た散策子は、のんびり周囲の自然を堪能しつつ、寺の参詣に向かう。
そこの僧が語ったのは財産家の夫人に焦がれ死にした男の奇怪な話。
散策子もすでに妖しい世界に絡め取られはじめていただろうか。
彼女の書き残した、小野小町のうたたねの和歌を目にした時から。
いや、散策中に蛇に気づいたときから。

例の夫人に帰り道に出くわす。危険を感じつつも、興味もあり、彼女の話を聞く羽目になる。
そして。

死んだ男も、夫人も今の感覚では薄気味悪いかもしれない。夫人の会話もぼんやりしてる。
彼女自身も、はっきりしない。素姓も分からず、客人・僧・散策子の描写から、うつくしい
婦人を想像することしかできない。謎も放置されたまま。怪奇譚でもある。
ただ、眠ったような、生暖かい春の空気とそのぼんやり感が異様にマッチしている。
わけのわからない倦怠感と、胸に迫るせつなさでふらふらする。

説明の難しい作品なので、どうぞお試しあれ。

BGMを勝手に推薦…ワーグナー作曲「トリスタンとイゾルデ」一幕の前奏曲
いかがでしょう。



春の陽気の死の影
 鈴木清順の映画「陽炎座」の原作である。「陽炎座」という映画が非常に好きな事より 本書を読む機会を得た。

 「陽炎座」という映画は 泉鏡花の幾つかの短編を合わせて作り上げられている。本筋は 泉鏡花の「陽炎座」という作品だが それに 本書を上手に合わせて 独特の泉鏡花の世界を作り上げている。実際 僕としても 鈴木清順の その映画こそが 泉鏡花原作の映画でも もっとも泉鏡花に近いと思っている。対抗できるのは 寺山修司の「草迷宮」くらいか。

 ところで 本作は 春うららかな昼下がりに語られる怪談である。春のうとうとした雰囲気で怪談を仕立てるというところが 泉鏡花の 手腕なのだと思う。春の陽気に潜む死の影を読み取る視線が まったりと読んでいる僕らにも ひやりとさせるものがある。
鏡花の音楽
鏡花には畳みかけの音楽があります。つまりワン・ツー・スリーと迫っていくやり方です。「五十里、百里、三百里・・・熱あるものは、楊柳の露の滴を吸うであろう。恋するものは、優柔な御手に縋りもしよう。はた迷える人は、緑の甍、朱の玉垣、金銀の柱、朱欄干、瑪瑙の階、花唐戸。」この三拍子がワルツのように文章の脈となって息づき、波のように打ち寄せては引き、また打ち寄せる。こうしたうねりのような語り口に乗せられて、進んで見るは妖しい女と奇怪な青年。

「恋人は唯だ慕う、愛する、こがるるだけで、一緒にならんでも可いのか、姿を見んでも可いのか。姿を見たばかりで、口を利かずとも、口を利いたばかりで、手に縋らずとも、手に縋っただけで、寝ないでも、可いのか・・せめて夢にでも、その人に逢いたいのが実情です。そら、幻でも神仏を見たいでしょう。釈迦、文殊、普賢、勢至、観音、御像はありがたい訳ではありませんか。」

そして手繰り寄せられるように女に吸い寄せられた青年の運命や如何に?それは読んでのお楽しみ。
春の逢魔が時に
今で言う、湘南や逗子のうららかな春の日の物語。「朱(しゅ)の色した日の光にほかほかと、土も人膚(ひとはだ)のように暖(あたたこ)うござんす。竹があっても暗くなく、花に陰もありません。燃えるようにちらちら咲いて、水に散って朱塗(しゅぬり)の杯(さかずき)になってゆるゆる流れましょう。」(107ページ)。美女の予言のように、人の命は花と咲いて散り、身体は水に「ゆるゆる」と流れる。魔が通り過ぎてゆく。春を舞台とする怪奇小説の最高の名品。
怪奇ムードたっぷりの人気作品
泉鏡花的エッセンスがたっぷり詰まった、まさに“鏡花ワールド”な作品です。
『しゅんちゅう・しゅんちゅうごこく』と読み、二作あわせて一つの物語になっています。

この小説は、枠物語(語り手と聞き手の間で物語が展開される形式)なのですが、『春昼』は、語り手=「和尚」から、聞き手=「散策士」が、“一年前寺に逗留していた「客人」が、「玉脇みを」なる美人の人妻に焦がれ死にした”という話を聞くというストーリーです。
そしてそれを受けて、『春昼後刻』では、「散策士」と「みを」が出会いますが・・・。

全編を通して、怪奇ムードたっぷりの怖~いお話です。読んでいると、どきどきするけどやめられない。鏡花の作品の中ではこれが一番人気のようです。

でも、ただ怖いだけじゃなく、「○△□」のトリック他、二作を結ぶ様々なキーワード(「幕」「油」「手巾」etc.)が駆使されて、鏡花ならではの奥行きのある小説に仕上がっているところが魅力ですね。

怖いお話が好きな方におすすめです。




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